死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。

 多分俺が奈々達に虐待のことを話せないのは、俺が奈々と潤と恵美を信頼してないからではない。でもだからといって、勇気がないことだけが問題かと聞かれたら、それも違う。多分俺は、あのクソ親を庇おうとしている。あんな大怪我をしたくせに、母親を守ろうとしてるんだ。そんな自分の馬鹿すぎる思考が、俺は何よりも腹立たしい。

 目が赤くなってる俺の腕を引いて、奈々はダイニングに戻った。

「あ、やっと戻ってきた。え、あづなんで泣いてんだよ」
 ソファに座っている潤が困惑した様子で俺を見る。

 俺は何もいわず、奈々の後ろに隠れた。
 お願いだから今は何も聞かないで欲しい。

「傷がだいぶ痛かったらしい。あと、怜央から連絡が来ないんだと」

 怜央とは実際連絡が取れてないから、奈々が言ったことは全てが嘘な訳ではなかった。ま、泣くほど仲が良かったのかと聞かれたら、それは違うのだけれど。

 ただあいつは、今日みたいに虐待のせいで精神状態が荒れてる俺とも気兼ねなく一緒にいてくれるから、それがすごく心地いいのは確かだ。
 あの母親は虐待がバレるのを恐れて、俺に、体育がある日は学校を休むようにいっている。だが、体育がある日だけ休みさえすれば虐待がバレない訳ではないので、学校には俺の家の異常さに気付いているやつが、少なからずいる。
 俺と中学から学校が一緒な怜央は、その中の一人だ。
 あいつは俺の家の異常さに気づいているから、俺が学校に来る度に、俺の頭を撫でたりする。
 今日も撫でられた。
 今日は怪我が痛すぎて学校に行くどころじゃなかったので、俺は虐待をされた後は、適当に暇を持て余していた。そした十五時過ぎくらいに道で怜央に会って、頭を撫でられた。俺はそれだけでなんだか泣きそうになってしまって、何も言わずに怜央の胸に顔を埋めた。すると怜央は、目尻を下げて笑ったんだ。
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