死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
助けを求めたのは、俺の心が悲鳴をあげていたからなのかもしれない。
助けを求めちゃダメだとわかっていたのに、助けを求めずにはいられなかった。心が限界だった。それでも、限界でも、俺はきっと耐えなきゃいけなかった。自分が可愛いなら。もうこれ以上酷い目にあいたくないと思っているなら、そうするべきだった。
なんで。どうして。俺は禁忌をおかしてしまった。許されない。これからきっと、酷いなんて在り来りな言葉では言い表せないようなお仕置が、俺を襲う。
母さんのことを考えないようにしようと思って、アイスを手に取り、口に運ぶ。味がしない。なんで。虐待への恐怖心が、味覚を可笑しくしているのかもしない。
額、首、背中と、身体中の至るところから冷や汗が吹き出す。
……落ち着け。頼むから、落ち着いてくれ俺。でないと、怜央に心配をかけてしまう。俺は怜央に心配してもらいたかった。でも、本当に心配をかけたら、絶対に母さんに怒られる。いや、助けてって言った時点で心配はかけているのか。それならせめて、もう心配かけないようにしないと。でないと、とても怒られるから。
「助けてって、どういう」
「………いや、なんでもない。今の忘れて」
忘れて欲しくなかった。忘れてなんて、言いたくなかった。でも言わないと怒られる。タダじゃ済まない。
もう暴力は嫌だ。嫌だ、嫌だ。
「あづ、顔色悪いぞ」
俺の顔をのぞきこんで、怜央は不安そうに首を傾げる。
「……悪くない、俺は平気だから」
全然平気じゃなかった。でも平気って言わないと、嘘をつかないと。……母さんとの約束を守らないと。
「なぁあづ、本当に助けが必要なら、俺は俺にできることなら、なんでもするから」
「……しなくていい。いや、しないで。お願いだから」
さっきは助けてって言ったのにこんなことを言うなんて、どれだけ矛盾しているんだ。でも俺には、これしかできない。それがどんなに矛盾した行いかわかっていても。
「なぁ、あづ、さっきからお前、変だぞ」
俺の肩に手を当てて、怜央は言う。
「……俺は、変じゃない」
「変だよ! やっと助けてって言ったと思ったら、今度はそのこと忘れてっていって!! 俺のこと信頼したんだろ? それなのに相談もしねぇのか?」
相談なんてできるわけない。だってしたら、俺の日常が壊れてしまう。そんなの絶対ダメだ。
食べかけのアイスが溶けて、ピンク色の液体になる。
それはまるで、やっとできた俺と怜央の絆が、壊れていくのを体現しているように思えた。
なんで俺は怜央と喧嘩をしそうになっているんだろう。俺はただ、自由が欲しいだけなのに。
「……ごめん。相談できない」
怜央は何も言わず、唇を噛んだ。