死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。

「おいあづ、流石にそれはやめろ! 犯罪だぞ?」
 店を出た途端、怜央は叫んだ。
「なんだよ。俺を助けんじゃなかったのか? 俺のためならなんでもするって言ったのは怜央だぞ? だったら力を貸してくれよ! 俺は、このままじゃろくに生きていくことすらできないんだよ!」
 はあ。さっきは何もしないでって言ったくせにこんなことを言うなんて本当に正気じゃない。矛盾している。常軌を逸している。俺の頭の中は、めちゃくちゃだ。

 どうしようもなくイライラして、スマフォを壊すような勢いでうさぎのぬいぐるみのストラップをとる。

「あづ、それ、何だよ」
 怜央が心配そうな顔をして俺を見る。

「母さんがくれた」
 ストラップを握りしめて、ぬいぐるみごと、盗聴器をぶっ壊そうとする。

「あづ、やめろよ。母親のこと好きなんだろ? だったら、別に壊す必要なんか」
 俺を気遣って、怜央がストラップを俺の手からとろうとする。
 気遣ってくれてるとわかってても、どうしようもなく腹が立った。

「お前は、こん中に何が入っているかわかっていっているのか! あの母親がただの善意で俺にものをくれたら奇跡なんだよ! この中にはっ!!」
 盗聴器が入っているって言いたかったけど、言えなかった。だってそう言ったら、母さんが俺を信頼してないって言っているようなものだから。母さんが俺を信頼してないことはわかりきっていたけれど、『盗聴器がある』って、母さんが俺を信頼してないのと同義のことを口に出してしまったら、さらに心が傷つく気がした。

「何が入ってんだよ」
「なんでもいいだろ、もう」

 盗聴器があるなんてとても言えなくて、投げやりに言葉を返す。
 スマフォとぬいぐるみをポケットにしまって、床にしゃがみ込む。
 怜央と言い争っていたら、壊す気が薄れてしまった。
 違うな。最初から壊す気なんてなかったのかもしれない。だってこれは、母さんが虐待をするようになってから初めてくれたプレゼントだから。そのハズだった。スマフォや金などの生活に必要なもの以外で、母さんが初めて俺にくれたプレゼントのハズだった。

 母さんは確かにプレゼントと言った。けれど、この中には盗聴器が入っている。つまり、これはプレゼントじゃなくて、俺の動向を探るものだ。要はこれは、俺の生活には必要ないけど、母さんの日常を守るために必要なもので。そんなの全然プレゼントではない。

 母さんがプレゼントと言ったのは、盗聴器が中に入ってることを伝えないためでしかなかった。それなのに俺はあんなに浮かれて、『やった!』なんて言って、本当に馬鹿だな。
< 147 / 170 >

この作品をシェア

pagetop