死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「なんでもよくねえよ」
俺の隣にしゃがみ込んで、怜央は言う。
「……怜央、俺もう疲れた。死にたい」
肩を落として項垂れる。
「し、死にたいって、本気かよあづ」
「さあな」
本気かどうかは、わざと答えなかった。
「ちゃんと答えろ! お前は、本当に死ぬ気なのか?」
「ああ、そうだよ! だってこんな世界じゃ、生きてても少しも楽しくない!!」
「俺といる時も楽しくねえのかよ」
「違う。それは違うけど……でも、母さんのことを思い出すと、すぐに楽しくなくなっちゃうんだよ」
奈々や潤や恵美といる時も、怜央といる時も楽しいとは思う。でも、みんなといる時に母さんのことを思い出したら、すぐに楽しくなくなってしまう。
母さんのことを考えないようにしようとしても、身体中にある虐待の傷を見るたびについつい考えてしまうし。
「見えない縄が、あづを縛りつけてんだな」
「……縄なら、見える」
そういうと、俺は包帯が巻かれてない方の腕の袖をまくって、怜央に見せた。
肩と手首にある真っ赤な火傷の跡と、肘のそばにあるおびただしい量のあざを見て、怜央は目を見開く。
「こ、こんなひどいことになってたのか」
青ざめた顔で怜央はいう。
明らかに動揺していた。まあ、当然か。
あざは片腕だけで少なくとも十個以上はあって、一センチくらいの小さいものもあれば、五センチくらいの大きいものもあるし、火傷の跡だって、少なくとも三個はあるもんな。
「うん。俺はこの傷を見るたびに死にたくなるんだ」
「そ、それでも死んだら、何もかも終わりだぞ」
虐待のせいでどんなに教養が抜けてても、決して、その言葉の意味がわからないほど、馬鹿ではなかった。
死んだら、奈々とも潤とも恵美とも怜央とも会えなくなる。
本当に、何もかも終わってしまう。
「だとしても、俺はもう疲れた。あの母親に期待をするのも、期待を裏切られるのも、もううんざりだ。俺は解放されたい。自由になりたい」
服の袖を元に戻して、下を向いて言う。
「自殺をしたら自由になるわけじゃねえだろ」
「でも少なくとも、自殺をすればあの母親に会うことはないから」
「お前は本当に二度と母親に会いたくないのか?」
違う。俺は母親に会いたくないんじゃなくて、暴力を振るってくる母親に会いたくないんだ。
でも、そんなの多分無理だ。
「じゃあどうしろっていうんだよ! 怜央は良いよな! 毎日あったかいご飯が食えて、風呂だって入れて、親は二人ともすごい優しくて! わかんないよな! 恵まれてる怜央に俺の気持ちなんか!!」
そこまで言って、自分がただ八つ当たりしてるだけだと気づく。
「あづ」
「……ごめん。怜央は自殺を止めようとしてくれただけなのに」
「いや。いいよ別に。あづは偉いよ。今までよく耐えたな」
「偉くなんかない。俺はただ母さんが好きで、母さんに必要とされたいだけだ。そう思ってたから、今まで生きてこれた」