死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「なんでそんなに母親が好きなんだよ」
「母さんの優しさを、誰よりも知ってるから」
虐待をされる前までは、毎年誕生日プレゼントを買ってくれた。毎日あったかくて、美味しいご飯を腕によりをかけて作ってくれた。俺が泣いていたら、泣き止むまで、笑って頭を撫でてくれた。寝れなかったら、声が枯れるくらいまで子守唄を歌ってくれた。そんな記憶が、優しい母さんの記憶がこんなに残ってるのに、嫌いになれるわけない。どんなに暴力をされても、いつか優しい母さんに戻るかもって、そう思ってしまう。
そんなことあるわけないのに。
「俺がたかりをしたら、母さんは俺に優しくしてくれるかもしれない」
あるわけないとわかっているのに、口からそんな言葉が漏れた。
「なんで?」
「母さんが、たかりでもすればって俺に言ったから。自分から提案しておいて、本当にしたら怒るなんてことは流石にないと思う」
ないと思うではなくて、俺は多分、そんなことはないと思いたいんだろう。
「怒らないからって、優しくしてくれるわけじゃないだろ」
「そんなのわかってる。でも、どうせ死ぬなら、俺がたかりをした時の母さんの様子を見てから死にたい。……もしかしたら、優しくしてくれるかもしれないから」
最期くらい、優しくされたい。心の底から可愛がられたい。
「自殺をする前提で話を進めるなよ。あづ、お前は独りじゃない。俺も、あの世話焼きの潤も、奈々も恵美も、みんなお前が大切なんだよ」
涙を流しながら怜央はいう。
「でも俺が一番大切に思ってる人は、いつだって俺を邪険に扱う。もう嫌だ。こんな世界で生きるの」
奈々に、潤に、恵美に、怜央にどんなに大切にされても、俺の心は満たされない。俺はいつだって、みんなより母さんを選んでしまう。それなのに生きてて楽しいなんて思えるわけない。死にたい。逃げたい、地獄のようなこの世界から。
「なあ怜央、親友なんだろ、俺を裏切らないんだろ。なら犯罪でもなんでも付き合えよ、最期くらい」
怜央の腕に縋り付いて、ボロボロと涙を流す。
俺は卑怯だ、親友なんて言葉をダシに使うなんて。
それでも、どんなに卑怯だとわかっていても、そうせずにはいられなかった。
「わかった。付き合う。でも絶対最期にはしないからな」
何も言わず、ゆっくり立ち上がる。
返事はしなかった。自殺をするのをやめることは、できそうになかったから。