死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「何言ってるの。なれるかなじゃなくて、なるんだよ。それに、奈々はまだ死なない。余命よりも永く生きるんだよ」
「ああ、……そうだといいな」
泣きながら笑う。
余命より永く生きられるかなんてわからない。
恵美は俺を励ますためにそう言っただけで、俺が永く生きられる根拠なんか少しもない。それでも、恵美の言葉にすごく救われた。
「恵美、ありがとう。本当に。恵美がそばにいてくれて良かった」
「ふふ、それなら良かった」
「俺、穂稀先生にもう一回電話かけてみる。 やっぱり俺は、あの人を悪人だなんて思えないから」
「でもこの前、電話出なかったんだよね? そしたら病院行って、お話したら?」
「ああ、そうだな。病院に行くだけなら、潤は怒らないと思うし」
「うんうん! そうだね!」
昨日病院から出る時に持っていたトートバッグに薬と水が入ったペットボトルを入れる。
「これも入れといたら?」
キッチンの引き出しからビニール袋を2、3枚取り出して、恵美は言う。
「ありがとう」
俺は恵美から袋を受け取って、トートバックの中に入れた。
「じゃ、いこっか」
俺の手からトートバッグを奪い取って、恵美はいう。
「え、恵美、別にそこまでしなくて」
「いいの。私がしたくてしてるんだから」
「ありがとう」
そう言うと、俺は恵美と一緒に玄関にいって靴を履いた。
二人で病院のそばに行くと、入り口前にあづと穂稀先生がいた。
「奈々!」
病院の隣のビルの影に隠れていた潤が声をかけてくる。
俺と恵美はあづと穂稀先生に気づかれないよう、足音を立てないで潤の隣に行った。
「奈々お前何外出てんだよ!」
潤があづ達に声が聞こえないように、小声で俺を咎める。
「あづが心配で、つい」
「やれやれ。本当に奈々は昔とはえらい違いだな」
俺に呆れたように潤は言う。
「あ、奈々、潤、二人、中入るよ」
恵美がいう。
病院に目を向けると、ちょうどあづと穂稀先生が病院の中に入っていこうとしていた。
嫌な予感がした。まさか病院の中で虐待はしないよな。
俺達は足音を立てないようにしながら、あづと穂稀先生の後を追った。
あづと穂稀先生は一〇七号室の病室の前で、足を止めた。
その病室からは、物音一つしなかった。空き部屋なのだろうか。
穂稀先生が病室の中に入っていく。
「早く来なさいよ」
あづに向かって、穂稀先生は言う。
その言葉は、穂稀先生の俺に対する態度からはとても想像できないものだった。
穂稀先生の発言に驚いて、思わず潤と恵美と顔を見合わせる。
あづは慌てて病室の中に入って行った。