死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
穂稀先生が病室のドアの鍵を閉めた。
嫌な予感がした。鍵を閉めるなんて、これから何かよくないことをするっていっているようなもんだ。
次の瞬間、穂稀先生が、あづの髪を勢いよく引っ張った。
「あいつ！！」
「潤、騒ぐな。今はダメだ」
穂稀先生を睨みつける潤を宥める。
今はダメだ。ここで虐待が露呈したら、長谷川病院に勤めている医者の大半が、穂稀先生が虐待をしているのを知ることになる。そんな展開はあづも望んでいないだろう。
あづは右手で髪の毛を掴まれて、左手で、ズボンのポケットの中を探られていた。 ポケットには、財布が入っていた。
あづの財布の中身を確認して、穂稀先生はニヤリと笑う。
変だな。学生のあづの財布に大したお金なんて入ってないはずなのに、笑うなんて。
穂稀先生が財布に手を突っ込んで、お札を数十枚抜き取る。抜き取ったお札は、全て万札だった。
ざっと十万くらいはある。
お金を見て、潤は何かを察したかのように頭を抱えた。
「なんであづがあんなに金を持ってんだ？」
「……怜央と一緒にたかりをしたらしい」
潤が小声で、悔しそうに唇をかみしめて言う。
「え、それは、怜央が無理矢理あづにやらせたのか？」
「いや……あづが怜央に一緒にたかりをするように言ったらしい。母親が、金がなくて困っているあづにたかりでもしたらって言ったらしい。それであづは……」
思わず壁を殴ってしまいそうになったが、すんでのところで踏みとどまった。
ふざけてやがる。
そんなことをいうなんて、頭がイカれている。
そんな馬鹿げたことを言う母親をいい人だと思っていた自分を、呪いたくなった。
涙が頬を伝う。
俺がずっと穂稀先生はいい人だって信じていたから、あづは傷ついた。母親にたかりをしろっていわれて、言う通りにしてしまうくらい心がボロボロになってしまった。
俺が穂稀先生への情を捨てられていたら、あづをもっと早く助けられていたら、あづが犯罪をすることもなかったのに。
喉が焼けそうなほどひどい自己嫌悪に襲われる。
「母さんはさ、……俺のことを、どう思ってんの」
引っ張られたせいで不自然に跡がついた髪を触りながら、あづはいう。
「あんたのことは今も昔も、産まなければ良かったとしか思っていないわ。いい？所詮あんたは、私とあの人を繋ぐための道具に過ぎないのよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
潤と恵美と顔を見合わせる。
あづの瞳が潤んだ。
最悪にも程がある。実の息子に、道具って言うなんて。
「だよな。ごめん。今更……分かりきったこと聞いて」
涙を決して流さないように、腕をぎゅっと握りしめて、唇を噛みながらあづは言う。そんなあづの姿を見て、俺は思った。もしかしたらあづは、嘘でもいいから好きだって言って欲しくて、質問をしたのだろうかと。ひどいことを言われると分かっていたけれど、それでもほんの少しだけ良い返事が返ってくるのを期待して、質問をしたのだろうかと。
髪を引っ張られても、たかりをするように言われても、金を没収されても、どんなに残酷なことをされても、あづは健気に愛を求めていた。
なんで。どうして。そんなことしても、辛いだけなのに。
嫌な予感がした。鍵を閉めるなんて、これから何かよくないことをするっていっているようなもんだ。
次の瞬間、穂稀先生が、あづの髪を勢いよく引っ張った。
「あいつ！！」
「潤、騒ぐな。今はダメだ」
穂稀先生を睨みつける潤を宥める。
今はダメだ。ここで虐待が露呈したら、長谷川病院に勤めている医者の大半が、穂稀先生が虐待をしているのを知ることになる。そんな展開はあづも望んでいないだろう。
あづは右手で髪の毛を掴まれて、左手で、ズボンのポケットの中を探られていた。 ポケットには、財布が入っていた。
あづの財布の中身を確認して、穂稀先生はニヤリと笑う。
変だな。学生のあづの財布に大したお金なんて入ってないはずなのに、笑うなんて。
穂稀先生が財布に手を突っ込んで、お札を数十枚抜き取る。抜き取ったお札は、全て万札だった。
ざっと十万くらいはある。
お金を見て、潤は何かを察したかのように頭を抱えた。
「なんであづがあんなに金を持ってんだ？」
「……怜央と一緒にたかりをしたらしい」
潤が小声で、悔しそうに唇をかみしめて言う。
「え、それは、怜央が無理矢理あづにやらせたのか？」
「いや……あづが怜央に一緒にたかりをするように言ったらしい。母親が、金がなくて困っているあづにたかりでもしたらって言ったらしい。それであづは……」
思わず壁を殴ってしまいそうになったが、すんでのところで踏みとどまった。
ふざけてやがる。
そんなことをいうなんて、頭がイカれている。
そんな馬鹿げたことを言う母親をいい人だと思っていた自分を、呪いたくなった。
涙が頬を伝う。
俺がずっと穂稀先生はいい人だって信じていたから、あづは傷ついた。母親にたかりをしろっていわれて、言う通りにしてしまうくらい心がボロボロになってしまった。
俺が穂稀先生への情を捨てられていたら、あづをもっと早く助けられていたら、あづが犯罪をすることもなかったのに。
喉が焼けそうなほどひどい自己嫌悪に襲われる。
「母さんはさ、……俺のことを、どう思ってんの」
引っ張られたせいで不自然に跡がついた髪を触りながら、あづはいう。
「あんたのことは今も昔も、産まなければ良かったとしか思っていないわ。いい？所詮あんたは、私とあの人を繋ぐための道具に過ぎないのよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
潤と恵美と顔を見合わせる。
あづの瞳が潤んだ。
最悪にも程がある。実の息子に、道具って言うなんて。
「だよな。ごめん。今更……分かりきったこと聞いて」
涙を決して流さないように、腕をぎゅっと握りしめて、唇を噛みながらあづは言う。そんなあづの姿を見て、俺は思った。もしかしたらあづは、嘘でもいいから好きだって言って欲しくて、質問をしたのだろうかと。ひどいことを言われると分かっていたけれど、それでもほんの少しだけ良い返事が返ってくるのを期待して、質問をしたのだろうかと。
髪を引っ張られても、たかりをするように言われても、金を没収されても、どんなに残酷なことをされても、あづは健気に愛を求めていた。
なんで。どうして。そんなことしても、辛いだけなのに。
