死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
十章
切望。
道具って……。
髪の毛引っ張られて、たかったお金も、昨日もらった万札も奪われて、あげくの果てには道具呼ばわり。なんで俺、こんなひどいことばかりする母親に罵倒されて、泣きそうになっているんだ。
母さんがたかりでもしたらっていうから、俺がたかりをしたら優しくしてくれるかもって思ったから、したのに。
そしたら財布奪われて全財産ひったくられるとか、流石に予想外。そして一番予想外なのは、そんなひどいことをされても、ろくに反抗もできなかった自分だ。
『全財産奪われたんだぞ』って、『髪を引っ張られたんだぞ』って、どんなに自分にそう言い聞かせても、俺は母さんを殴ることすらできなかった。
俺は母さんに質問をすることしかできなかった。しかもその答えが道具って。あの人と自分を繋ぎとめるための道具。
あの人っていうのは多分、俺の義理の父さんのことだろう。義父さんは、俺と血が繋がっていないのに気づいている。それでも義父さんが母さんと離婚をしようとしないのは、俺がいるから。
二人が離婚をしたら、多分俺は母さんと一緒に暮らすことになる。血が繋がってない父親より、血が繋がっている母親と暮らした方がいい、という結論になって。
義父さんが離婚をしようとしないのは、その結論になるのが嫌だからだろう。
血が繋がってないとしても、十六年もの間それなりに愛情を持って接してきた子供を手放すのは嫌だから、義父さんは離婚をしようとしない。
サラリーマンで転勤があるとはいえ母親の虐待に気づいていない時点で、本当に俺に愛情を持って接しているのかは甚だ疑問だけれど。
それでも少なくとも、俺の存在が、義父さんが離婚を切り出さない理由になっているのは確かだ。
母さんはそれがわかっているから、俺の存在が、義父さんが母さんと離れない理由になっているのがわかっているから、俺のことを『あの人と自分を繋ぎとめるための道具に過ぎない』って言った。俺は義父さんと母さんを繋ぎとめるものである前に、母さんの子供なのに。