死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。

 奈々も潤も恵美も、俺を馬鹿だとも、夢みがちだとも言わなかった。三人とも俺を笑わなかった。そのせいで余計、涙が出てしまった。

「あづ、よかったら、俺らとルームシェアしないか? 潤の家で」
 涙を拭っている俺に、奈々はそっと語りかける。

「は? お前何言ってんの?」
 ルームシェア? なんで急にそんな話になるんだ。

「だってあづ、ほっといたら自殺しそうだし」

「それにお前、今日どこに帰る気だよ。まさかあのクソ親のとこに帰るなんて言わないよな?」

 奈々の言葉に付け足すみたいに潤は言う。

「言わないけど……でも、俺に他に行く場所なんて」

 怜央の家じゃ、俺が八つ当たりしてまた喧嘩になる可能性もあるし、奈々や潤達の家に何日も居候なんてするの申し訳ないし。

「あるよ。俺達と暮らそう、潤の家で。潤のあの部屋ならメゾネットだから四人でも狭くないし、家事とかちゃんと役割分担すれば、ある程度は暮らせるだろ」

 どうってことない様子で、奈々はいう。

「確かにそうだけど……俺、家事なんてしたことないし」

「したことないじゃなくて、あづはさせてもらえなかったんだろ。食事は俺達三人でかわるがわるで作るから、あづは洗濯物洗って干したり、畳んだりすればいいから。洗濯の仕方とか服の畳み方は簡単だからすぐ理解できると思うし」

 簡単なのか? でも、簡単だとしても……。

 家事が簡単かとか、そんな問題じゃない。三人の高校生が、一人の友達のためだけに、四人で同居をしようと言うなんて、相当おかしなことだ。奈々は本が好きで頭だって良いんだから、それぐらいわかるはずなのに。それなのにどうして、俺に同居を提案して、家事のことを説明しているんだ。

「簡単かどうかは、問題じゃないじゃん。なんで。ほっとけばいいじゃん。親友のお前らが自殺を止めようとするのがわかってたのに。それなのに自殺しようとした奴なんて」

 俺は、奈々達が俺を心配しているのなんてそっちのけで、本当に自分のことしか考えてなかった。そんな奴に同居を持ちかけて、何になるっていうんだ。

「だから、ほっといたら自殺すんだろうが! 俺は、あづが穂稀先生のせいで自殺するって言うなら、どんな手段を使ってでも、穂稀先生を改心させて、あづに土下座させる!!」

 土下座……。
 試しに母さんが俺に土下座をするのを想像してみたら、全く現実味が湧かなかった。

「か、母さんがそんなことすんのなんて、地球が滅亡するくらいの奇跡だよ」

「奇跡なんかじゃねえ! 母親が子供に謝るのなんて、普通のことなんだよ! 俺が絶対、穂稀先生を改心させる。穂稀先生が、あづに泣きながらごめんねって言う未来を俺が作る!!」

 なんで。そんなこと頼んでない。
 頼んでないのに、どうして。どうして奈々は、俺が母さんにして欲しいと思っていることを、こんなにわかってしまうんだ。
 
< 160 / 170 >

この作品をシェア

pagetop