死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。

 俺は青春を、母親に捧げた。

 それは多分、傍から見ればマザコンの勢いで。

 その想いが報われるなら、きっと誰も文句は言わない。でもこの想いは報われない。報われるどころか、俺と母親の関係性は悪化する一方だ。そんな状況だから、潤は「あんな母親、お前が殺したって、誰も文句は言わない!」って言おうとした。確かにそうだよな……。

 俺の青春は、無駄だった。十年間、俺なりに必死に母親に愛を伝えてきたけど、それは全て無駄だった。

「……奈々、いいよ」
「え、いいってなんだよ」
「作んなくていいよ、そんな未来。奈々が説得や説教をして改心するんじゃ意味ない。誰かに言われる前に、自分で間違いに気づいてくんなきゃ意味ねぇよ」

 奈々に説教されて母さんが謝ってくれたとして、果たしてそれは、心からの謝罪なのか。心がこもった謝罪は、誰かが指摘したり、説教したりしなくても自然と出るものなのではないのか。

 母さんが俺に謝ってくれないかな、とは思う。でも、心がこもった謝罪じゃないなら、意味がない。

 心がこもってないのだけは、絶対嫌だ。

「でもそれで、あづは納得するのか? ちゃんと謝ってもらった方がいいだろ」

「そうだな。うん、謝って欲しいとは思う。でも、心がこもってないのはダメだから」

 下を向いて俺は言う。

「あづ、別に説得されて謝ったからって、心がこもってない謝罪になるわけじゃない。本当に謝る気がない人は、説得したって謝ろうとはしない。逆に少しでも謝る気がある人は、説得したらきちんと話を聞いて、謝ろうとしてくれるんだ。俺はその謝り方が、心のこもってない謝罪だとは思わない。……確かにあづの言う通り、間違いに自分で気づくのが一番良いと思う。でも多分、それは難しい。それならせめて、説得してでも、謝ってもらったほうがいいんじゃないか?」

 下を向いている俺に目線を合わせて、奈々は言葉を紡ぐ。

 謝る気がない人は、説得されても謝らないか。……確かにそうかもしれないな。

「本当に説得できんの?」

「ああ、説得する。絶対にな。だから、穂稀先生が謝るまで、ちゃんと、自殺しないで待っててくれるか?」

 俺の頭を労わるように撫でて、奈々は言う。

「……うん、待つ。ありがとう、奈々」

『自殺をしようとするな』じゃなくて、「自殺をしないで待ってて」と言ってくれたのがとてもありがたかった。

 今は自殺をするなって言われても正直守れる気がしないから、その言い方の方がいい。

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