死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「じゃ、あづ、そろそろ俺の家に行くか。奈々と恵美は今日の夜か明日の朝までにでも荷物まとめて俺の家に来ればいいから」
「……潤、怒ってないのか?」
何気ない様子で家に行こうって言った潤に、ついそんなことを言ってしまう。
「あ? 怒ってるよ! 俺はお前がたかりをしたことにも、母親を嫌いになれてないことにも、お前が怜央の家に泊まりに行ったことにも、お前が自殺をしようとしたことにも腹を立てている! 奈々と喧嘩しかけたことにも!」
やっぱりそうだよな。
「……ごめ」
俺の口に手を当てて、潤は首を振る。
「謝らなくていい。お前がそういうふうになった原因は、全部母親のせいだから。俺はあづには怒んない。怒るなら、あづの母親に怒るべきだと思うから。さっきはそういうことを考えないであづに怒っちまったけど、今はそれじゃダメだって思うから」
奈々の発言を聞いて、そう思えるようになったのか。
「……でも、俺は奈々みたいに、自殺しないで待っててなんて言えない。あづに、自殺するなって叫びたい。でもそれじゃあ、俺の死んで欲しくないって想いをおしつけるだけだから。……俺は、お前が死にたくないって思う未来をつくる。だから生きろ。死にたくないって思えるようになるまで」
涙腺が緩んで、また涙が出そうになる。
「……うん、わかった」
「よし。約束だ」
涙を堪えながら頷いた俺を見て、潤は笑う。
「とんでもない約束ねぇ。でも、あたしも賛成。あたしも、あづが死にたくないって思う未来を作りたい。奈々もそうでしょ?」
恵美が得意げに笑う。
「ああ、もちろん。あづが死にたくないって思える未来を、俺も作りたい」
恵美と奈々が目を合わせて頷き合う。
「……はは。お前ら、最高だな」
なんで、俺が辛くない言い方ばかりしてくれるんだ。ありがたいにも程がある。
「そりゃあ、だてに親友やってないからな」
潤が上機嫌な様子で腕を組む。
俺はこんなに優しい三人の親友を置いて、死のうとしたのか……。
「ごめん、奈々、潤、恵美。お前らはこんなにも俺のことを考えてくれていたのに、俺は自分のことばっかりで、本当にごめん」
「あんな環境じゃ、そうなって当然だ。あづは悪くない」
奈々の優しさが心に沁みた。
「うん、ありがとう」
頷いた俺を見て、奈々は穏やかに笑った。
「それじゃあ私達は一旦帰ろうか、奈々」
「ああ、そうだな」
恵美と奈々が目を合わせて頷き合う。
「早く来いよ」
潤が二人に声を掛ける。
潤は病院を出るために歩き出した。奈々と恵美と一緒に潤の後を追って、俺は病院を出た。