死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「じゃ、また後で。恵美は俺の家来る時は布団も持ってこいよ。奈々の分は多分足りるから大丈夫だけど」
病院を出て十分ぐらいのとこにあった十字路で、潤が恵美にいう。
「うん、持ってくる。また後でね」
「またな」
奈々と恵美が俺と潤に声を掛ける。
「うん」
「あづ、これからはなんも心配いらないから」
「え」
心配いらない? そんなわけがない。だって俺は虐待を受けてからずっと、心配ごとがなかった日なんて一日もなかったんだから。
「そうそう。大船に乗った気でいなさい!」
恵美が奈々に続けて言う。
何も答えられなくなってる俺を抱きしめて、奈々は笑う。
「大丈夫。俺達が何もかも、大丈夫にするから」
本当に心配ごとがなくなるのかはわからなかったけれど、少なくとも奈々は本気で、「なにもかも大丈夫」にしようとしてくれていることだけはわかった。
「うん」
何度も頷いて、奈々の言葉をかみしめる。
信じたい。いや……信じよう。きっと虐待は解決するって、俺の自殺願望もきえてなくなるって。だって奈々が言うんだから。きっと……いや、絶対に大丈夫だ。
「また後でな、あづ」
「またね、あづ」
「うん。また後でな」
笑って返事をした俺を見て、奈々はほっと息を吐いた。……心配かけちゃったな。
奈々は俺の頭をふわっと撫でてから、恵美と一緒に十字路を左に曲がって家に向かった。
「あづ、買い物付き合ってくんない? 夕飯の食材買いたくて」
奈々達の姿が見えなくなったところで、潤は言う。
「うん」
俺は潤と一緒に、スーパーに向かった。
スーパーには、十分くらいで着いた。
「あづ、夕飯何がいい」
スーパーの入り口前に置かれていた買い物カゴを取って、潤は首を傾げる。
「え、俺が決めていいの?」
飯のリクエストを聞かれたのなんて、虐待をされる前以来だったから、ついそんな言葉が漏れた。
「ああ、もちろん」
「なんでもいいの?」
俺の態度を見て、潤は顔を顰める。
多分、俺の態度から虐待のありようを感じ取っている。
「ああ、なんでもいいよ」
俺と目が合うと、潤は顔を顰めるのをやめて、歯を出して笑った。