死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「あづ、遠慮なんていらないんだからな」
俺を見下ろして、潤は口角を上げて笑った。
「え、でも……」
「あづ、俺はお前の母親でも父親でもなくて、お前の親友だから遠慮はしなくていいんだよ。遠慮なんてしたら、絶交だからな」
絶交って……。
「なんでそんなふうに言ってくれるんだ」
「俺はもうお前が我慢するのは見たくないから。大丈夫だよ、あづ。ここには母親はいないから、なんでも言っていいし、なんでもやっていいんだから」
ああ、そっか。……確かにそうだよな。潤も奈々も恵美も、俺が何を言っても、母さんみたいには怒らないよな。
「……ありがとう、潤」
「おう! あづ、気に入ったやつあった?」
「え、えっと……あれ」
二段のショートケーキを指さす。
「おっけー」
そう言うと、潤は直ぐに店員に話しかけて、ケーキを買ってくれた。
「ほら、あづ」
潤がケーキの入った白い箱を俺に見せてくる。ケーキを食べるのなんてすごく久しぶりだから、それを見ただけですごくテンションが上がった。口角が上がって、心がドキドキと音を鳴らす。手を伸ばして、俺はそれを掴んだ。
「あづ、持つのはいいけど、怪我している方の腕で掴まないようにしろよ?」
俺の腕を見て、潤は悲しそうに目尻を下げた。
「うん、そうする。ありがとう潤」
潤を見て俺は笑った。
「ああ。じゃ、俺の家に行くか」
「うん」
潤がドアを開けて、ケーキ屋から出る。
「ありがとうございました」
ショーウィンドウのそばにいた店員が俺と潤に向かってお辞儀をする。俺は店員に向かって軽く頭を下げてから店を出た。