死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
俺と恵美はヘアスプレーを買うと、すぐに潤の部屋があるアパートに行った。
恵美がインターホンを押すと、潤はすぐにドアを開けてくれた。
「よ! さっきぶり」
「奈々、恵美」
あづは潤の背中にひっついて、不安そうな顔で俺と恵美を見ていた。
「あづ、潤にちゃんと食べたいもの買ってもらったか?」
「うん」
「買ったのはケーキだけどな」
潤がそう言うと、あづは悲しそうに顔を伏せた。
誕生日でもないのにケーキか。大方、虐待されててあまり食べたことがなかったから、それがいいと思ったのだろう。
「じゃあピザでも注文して、みんなでお祝いするか」
「何のお祝い?」
あづが不思議そうに首を傾げる。
「んー、あづが自殺しなかったことを祝してだな」
俺がそう言うと、あづは笑って頷いた。
「ありがとう」
「じゃあピザとケーキの前に、奈々の髪を切っちゃおうか!」
「髪?」
「そ。スプレー買ったから」
あづの問いかけに頷くと、恵美は俺の手を引いて洗面所に行った。
新聞紙を床に敷くと、恵美は迷いなく髪を切ってスプレーをかけてくれた。
「かっこいい。やっぱり奈々絵は赤だな」
赤紫色になった俺の髪を触りながら、あづは満足そうに笑った。
同性にかっこいいね。まあ確かに肩に当たらないくらいに短くもなかったから、切る前よりはだいぶ良くなっているのもわかるけど、そこまでいうほどか?
「さ、ピザを頼むか」
新聞紙や切った髪の毛を片付け終わったところで、潤は言った。
俺達はチーズがのった生地に蜂蜜をかけたものと、キノコやトマトがのったピザを注文した。
「うわ、俺ピザなんて初めて見た!」
届いたピザの箱を開けて、あづは叫んだ。あづが嬉しそうに口角を上げて頬を赤らめる。
初めてね。高校生がそんなことを言う環境なんてはっきり言って異常なのに、あづはそのことを反抗もせずに受け入れていたんだよな。
皿とフォークと飲み物を用意すると、俺たちはすぐにピザを食べることにした。
あづがハムスターみたいに頬を膨らませながら、ピザを口に入れる。蜂蜜が頬に垂れていて子供っぽい。
「あづ、蜂蜜ついてるぞ」
「え、嘘? どこ?」
テーブルにあったティッシュをとって、俺はあづの頬を拭った。
「ん、とれた」
「ありがと。奈々、そっちも美味い?」
「ああ、美味いよ。ほら」
「ん、ありがとう」
トマトピザの方を取って渡すと、あづは無邪気に歯を出して笑って、それを口に入れた。手で受け取らずに食べられた。これ、カップルか幼稚園児がすることだろ! いや、小学生もするのか? あづはこんな風に高校生なのに小学生みたいなことばかりする。そんな一面を見るたびに俺は、あづに教養が身についていないことを実感して悲しくなる。