死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「なえ、おはよ!」
「……帰れ」
 知り合って一か月半が経っても、懲りずにあづはやってきた。
「それ毎日言われてるんだけど。まじ嫌だわお前のそういうこと」
 丸椅子に座り、顔をしかめてあづは言う。
「嫌なら来なければいいだろ」
「来るよ。嫌なのそこだけなんだから」
「……あっそう。お前めんどくさいな」
「それお前にだけは絶対言われたくねぇ。お前の方がよっぽどめんどくさいからな? どんだけ心開く気ないんだよ。頑固か」
 あんなことがあれば頑固になって当然だ。
「うるせぇ。お前学校は? 今日平日だろ」
 今日は水曜日だ。学校がないわけがない。それなのにあづは朝から病室に来た。
「サボった」
「なんで」
「そんなのお前に会いたかったからに決まってんじゃん」
 笑いながらあづは言う。
「なっ! お前もう帰れ」
 戸惑い、俺は叫んだ。
 そんな風に言われたのは、初めてだった。
 会いたいなんて同年代に言われる日が来ると思ってなかった。どうしようもなく胸が締め付けられる。泣きそうだ。俺は慌てて顔を隠した。
「だから帰んねぇって。なんでそんなに帰って欲しいんだよ。俺邪魔か?」
「そうじゃねぇけど……」
あづから顔を背ける。
 邪魔ではない。付き合い方がわからないんだ。会いたいとか、話聞きたいとか言われても困る。なんてかえせばいいか分からないから。
「じゃあいいじゃん」
 嬉しそうに笑ってあづは言う。
「ああもうわかった。……好きにしろ」
 頭を抱え、小声で俺は言った。
 その日から俺は確実にあづに魅かれ始めた。いや、俺はたぶん、あづが姉みたいなことを言ったあの日から、少しだけあづに興味が湧いていたんだ。その興味がこの出来事でかなり強くなった。
 帰れって言う頻度が日に日に減っていった。
 知り合ってから二か月以上が経った頃には、帰れと全然いわなくなっていた。
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