死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「赤羽くん、ちょっといいかしら」
朝食を食べていたら、病室のドアをノックされた。
声から察するに、主治医の穂稀先生だ。
「はい。なんですか?」
「あのね、……カウンセリングを受けて欲しくて」
病室に入ると、穂稀先生は神妙な顔で言った。
「カウンセリングって、スクールカウンセラーとかのですか?」
「そう。赤羽くんが自殺をしたのは、いじめのことが原因でしょう。そのことがきっかけで、今後、再び自殺をしようとしたり、自傷行為をしたりすることがないように……カウンセラーの人と話して、心のケアをして欲しくて」
「……俺は全然いいですけど、多分親戚が金払わないと思います」
「え、どうして?」
「……俺の親戚は、みんな、俺じゃなくて姉ちゃんが生き残ってて欲しかったみたいなので。……それなのに俺が永く生きれる手助けをしてくれる人に金なんて払うと思います?」
「え。でも、治療費は払ってるじゃない!医者だって、赤羽くんが永く生きれる手助けをしてる人
でしょう!」
「……それは、俺が自殺未遂をして入院してることは、家の近所では結構有名になってるので、治療費を払わなかったら、きっと、瞬く間にお金が無くて治療費を払えなかったとかいう噂が流れるので、そうなるのが嫌で、治療費を払ってるだけです」
「……ごめんなさい。そうとは知らず、こんな提案してしまって。でも、念の為、電話してみてもいいかしら」
「いいですけど、絶対断られますよ。神に誓って良いです」
その後、穂稀先生は瞬く間に病室を出て俺の親戚に電話をかけに行った。そして、本当に断られた。
「……ごめんなさい、赤羽くん。まさかこんなことになると思ってなくて。カウンセリングを無償で受けられたらいいんだけど、……そんなのさすがに無理だと思うから、今回の話は聞かなかったことにしてもらえる? 本当にごめんなさいね」
病室に戻ってきた穂稀先生が言う。穂稀先生は、何故か本を手に持っていた。
「……はい。大丈夫です。気にしないでください。先生が謝ることじゃないので」
本当に、先生が謝ることじゃない。ただ俺が親戚にやたら嫌われてしまっているだけだから。
「赤羽くんあの、これ、よかったら読んで。さっき、病院の図書室から取ってきたの」
そう言って、穂稀先生は手にもっていた本を俺に差し出す。
それは、『あなたが死んだら私は悲しい』というタイトルの本だった。
「……先生、俺は大丈夫です。自殺なんてこんな体じゃとてもできませんし、それに、ここには自傷行為をする道具だってないでしょう。それなのに、自傷なんてするわけないじゃないですか」
「……それもそうね。ごめんなさい。こんなのいらないわよね。赤羽くんには、あの子達がいるもんね」
本を強く握りしめて、先生は言う。
あの子達? つい、あづの姿が頭をよぎった。
「なんで今あづ達の話が出てくるんですか?」
「あら、私は亜月くん達だなんて、一言も言ってないわよ?」
思わず頬が赤く染まる。
「からかわないでください!」
「はいはい。じゃ、くれぐれも安静にね」
そう言うと、穂稀先生は笑って病室を去っていった。