死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
三章

化けの皮。

「朝か……」
 気が付けば朝になっていた。いつの間にか泣き寝入りしていたらしい。
 目を擦って涙を拭っていたら、また頭痛がおしよせてきた。
「痛っ!」
「赤羽くん、大丈夫っ!?」
 ナースコールを押すと、すぐに看護師と穂稀先生がきてくれた。渡された薬を飲むと、徐々に頭痛が収まってきた。
「はぁ……」
 頭を押さえながらため息をつく。
 自分は病に侵されていることを今更のように実感して、冷や汗が出た。
「薬、多めに持ってきたから棚の上に置いておくね。また痛くなったら飲んで」
 病室の端に置かれた棚の上に薬と水の入ったコップを置いて、先生は言う。
 棚に入ってるのは、替えの病衣と自殺した時に着た服だけだ。寝るためのベッドに、医者や見舞いに来た人が座る丸椅子、ゴミ箱、窓、それに花瓶。――必要最低限のものしかここにはない。遊べる道具もなければ、大好きな姉もいない。そんなせまい世界で、俺は死んでくのか……。寂しいな。そんなこと俺が考えちゃダメだけど。死ぬしかないんだし。
「赤羽くん、病室に監視カメラをつけてもいいかな? またいつ症状が起きるかわからないから、念のために」
 先生が真剣な顔で言う。
「……いいですよ。先生、昨日はすいませんでした。その本も」
 ゴミ箱にある本を顎で示す。その本は、病気のことを聞いた俺が自害をしないようにと、先生が貸してくれた。『あなたが死んだら私は悲しい』という、カウンセリングの話をした時に、先生が持っていた本だ。
 俺はカウンセリングの話を聞いた時に大丈夫だと言ったが、その時と今では全く環境が違ってしまったので、環境が変わったせいで俺が自害をしようとすることがないようにと渡してくれた。
「大丈夫だよ。急に病気のこといった私も悪いからね。少しは落ち着いた?」
「……はい」
「そ。ならよかった。赤羽くん、もう一度聞くけど、本当に手術はしなくていいの?」
 先生は首を傾げ、心配そうに俺の顔をのそきこむ。
「……しなくていいです」
「よく考えな。今はしなくていいって本気で思ってるのかもしれないけど、考え方が変わることもあるから。ね?」
「……分かりました。後先生、俺が重篤なの親戚には言わないでください。……たぶん、早く死ねって言われるだけだと思うので」
 先生は目を見開いて俺を見た。
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