死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「あ、先生、待ってください」
「ん?」
「あの、俺ってこのまま手術受けなかったら、余命どんくらいですか」
「そうだね。君の病気はそんなすぐ死ぬ訳じゃないの。悪化してヘルニアになったらそうなる可能性が高いけどね。悪化するのがいつかわからないからまだなんともいえないけど、きっともって数年かな」
「……そうですか」
 数年か。じゃあ大方、成人は迎えられないだろうな……。
「……うん。じゃあ、またね」
「はい」
 小さな声で、俺は頷いた。

 先生がいなくなった後、俺はベッドの後ろにあった窓を開けた。
 風が入ってきて、ベッドのそばにある丸椅子とゴミ箱が揺れる。俺の黒髪も一緒に揺れた。
 空では、太陽がさんさんと輝いている。気温は二十度くらいだろうか。梅雨入りしたのに良く晴れている。太陽を見るのは久しぶりだな……。
 眩しくて手で顔を隠していると、額から汗が流れた。
「……そりゃ、生きてたら汗くらい流れるよな」
 汗を拭って小さな声で呟く。
 後数年で汗も流れなくなって、そのうち息もできなくなるのか。
 一筋の涙が頬を伝う。――死にたくない。人殺しの俺に、長く生きる資格なんてないのにそんなことを思う。
 生きたいわけではない。
 生まれてからずっと死ねって言われてたし、それでも生きたいとは思えない。そんなことが思えるほど俺は強くない。
 ただ、死にたくはない。
 ――死ぬのは怖い。
 当たり前のようにしていた息が突然できなくなって死んでしまうのを想像したくない。そうなるのがどうしようもなく怖い。でも、受け入れるしかないんだよな……。
 俺は窓を閉め、ベッドに寝っ転がった。
「痛っ!」
 足が動いて、猛烈な痛みに襲われた。
 ……死んだら痛みも感じなくなるのか。
 ますます死への恐怖心が強くなり、思わず悪寒が走る。――怖い。でも受け入れないと。
 長く生きてても親戚やいじめっこに早く死ねって言われるだけなんだから。
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