死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「うっ……」
 不快感が押し寄せてきて、動かしづらい足を引きずってトイレに行き、ものを吐いた。気持ち悪い。吐いても吐いても吐き気が押し寄せて来る。食った病院食を全部吐いた。ものを流してから、便器の前にしゃかみこんで壁によりかかる。
「きつ……」
「赤羽くん!」
「あ、先生」
 穂稀先生がトイレに入ってくる。……鍵閉めてなかった。気持ち悪すぎてそこまで気が回ってなかった。
「……立てる?」
「大丈夫です」
 点滴を掴んで立ち上がろうとすると、立ちくらみに襲われた。
「わっ」
 倒れそうになった俺の体を先生は慌てて支える。

「はぁ……。全く! どこが大丈夫なのよ」
 ため息をついて先生は言う。
「……すいません」
 謝ることしかできねぇ……。

 あづ達を捨ててから一週間が過ぎた。あの日以来、あづには会っていない。正確には、俺が見舞いを拒否しているのだが。

 先生に身体を支えられながらベッドに戻ると、窓からあづの姿が見えた。俺と目が合うと、あづは舌ベロを思いっきり出した。それからあづは肩を落として後ろに振り向き、病院から離れていった。
「彼、毎日よく来るね。普通は諦めるのに」
 俺をベッドに座らせてから、先生は目尻を下げ、気の毒そうに言う。
「……暇人なんですよ。あんま学校行ってないみたいですし」
「来るのはそれが理由じゃないと思うけどね?」
 薬と水が入ったコップを俺に渡して、先生は笑う。
〝お前に会いたかったからに決まってんじゃん〟
 何か月か前に言われた言葉が頭を過った。俺は首を振ってその記憶を頭の隅においやった。
「……そうだとしても、俺はもう会いません」
 薬と水を飲んでから、小さな声で俺は言った。
「本当にそれでいいの?」
「……先生、あんましつこいと嫌われますよ」
「君ねぇ……」
 眉間に皺をよせて先生は俺を見る。
「嘘です。感謝してますよ先生には。嫌ったりなんかしません。ただ、俺の生き方に口出ししないでください」
「はいはい。わかりました。じゃ、赤羽くん、くれぐれも安静に!」
「……はい」
 病室から去っていく先生を見ながら、力のない声で俺は頷いた。

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