死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「……暇人か」
 足にひびかないようゆっくりベッドに寝っ転がってから、天井を見上げて呟いた。
 本当に暇人で、俺に会いたいだけなのだろうか……。いや、あんなの冗談に決まっている。あいつが平日も朝から来るのには必ず訳がある。あいつはきっと学校に行かないのではなく、行けないんだ。
「ハッ。捨てた人間のことなんて考えてどうすんだよ」
 俺は自嘲気味に言い、掛け布団を頭からかぶった。
 これでいいじゃないか。これ以上関わったろくなことが起きないのは確実だ。それならこれでいいだろ。何度そう言い聞かせても、納得はできなかった。


「うわっ、スゴイ嵐だね。流石にこの嵐じゃ亜月くんも来ないかもねー」
「……来なくていいですよあんな奴」

 翌日、異常気象なのか天気は荒れに荒れていた。大雨で雷も鳴っている。

「赤羽くん赤羽くん! 亜月くん来てるよ?」
「はっ?」
 寝ていたら、穂稀先生に起こされた。慌てて起き上がり後ろに振り向くと、外にびしょ濡れのあづがいた。見間違いかと思った。でも、被っているパーカーのフードの奥に見えた髪が青くて、それで確信した。
「赤羽くんどうする?」
「……ああもうっ!」
 タンスの中からジャンバーをとり、先生からタオルをもらってから、病室を出る。手すりを伝いながらエレベーターの所までいき、中に入って、一階のボタンを押す。

 あいつは馬鹿なのか。いや、馬鹿なんだろう。そして、捨てたくせに心配で様子を見に行こうとしてる俺も相当の馬鹿だ。

「アホかお前! 本当にアホだろ!」
「あ、なえだ。……やっと会えた」
 力が抜けたように笑ってあづはいう。
「やっと会えたじゃねぇよ。たった一週間ぶりだろ。お前本当に何考えてんだよ。風邪ひくぞ」
 あづの腕を引っ張り、病院の入り口前まで引っ張る。フードを脱がせ、髪や手をタオルで拭いてやった。
「だって、なえが来てくれる方法これくらいしか思いつかなくて」 
 言葉に詰まった。
 ……なんでそんなに来て欲しいんだよ。犯罪者だって言ったのに、なんでそんな態度変わらないんだ。そんなんだと俺が悪いことしたみたいだろ。罪悪感が芽生えちまう。雑にあつかえなくなっちゃうだろ。
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