死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
その後、俺達は穂稀先生にこっぴどく怒られた。いや、まだちゃんと歩けるようになってないのに追いに行ったからか俺の方がひどく怒られた。死んだ母さんに怒られてるみたいだった。
「亜月くん、ドライヤーどうぞ。お風呂場からとってきたので、できるだけ早く使って下さいね。今はお風呂場に人いないからいいですけど、すぐに誰かが入りますから」
散々俺達を叱った後、穂稀先生はあづにドライヤ―を渡した。
「……わかりました。ありがとう……ございます」
歯切れ悪くあづは言う。あづの手は微かに震えていた。
「あづ?」
「かっ」
去っていく先生に、あづがなにかを言いかける。
「どうかしました? 亜月くん」
「……や、なんでもないです」
「そ? じゃあ失礼するわね赤羽くん」
そういい、先生は去っていった。
「なえ、さっきの先生ってお前の担当?」
「そうだけど、それがどうかしたのか?」
「あの先生、俺の母親」
「え? 穂稀先生って苗字……あ、亜月か! 全然気づいてなかった」
指を鳴らして俺は頷く。
「ん? でも先生敬語じゃなかったか?」
「病院では他人のフリすることになってんだよ。他の医者に気ぃ遣われたくないんだってさ」
「ああ、そういうことか。それにしても、穂稀先生とお前って全然似てないな。親子に見えなかった」
穂稀先生はキャラメル色の髪に垂れ目がちな顔をしていて、柔和な印象がある。でもあづは、吊り上がった瞳が青髪とあいまって生意気そうだ。
「俺父親似だしな。父親の生き写しなんじゃないかってくらい父親に似てるらしい」
「ふーん?」
穂稀先生が母親なら、虐待されてる確率は低いか……。医者って忙しい職業だし、あの先生が虐待をするとはとても思えない。
考えすぎだったか……。思わずほっとして力が抜けた。 ん? ほっとする?
――なんで俺がこいつの家庭環境に一喜一憂しなきゃいけないんだよ?
狂っていく。
雑に扱うつもりだったのにそうできなくなって、仲良くするつもりなんてなかったのに仲良くなっていって。心配するつもりなんてなかったのに無意識のうちに気に掛けるようになって。