死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
――綺麗だって? この顔のせいでもう六年以上いじめられてきたのに? そんなのとても信じられない。
「……あづはまだしも、なんで潤まで言うんだよ。俺のこと気にくわないんじゃなかったのか」
仲良くしねぇって言ってたし。
「見直したっていっただろ。それに、顔の話してんだからそれは関係ねぇよ」
「そうかもしんねぇけど、本当に俺の顔は全然綺麗じゃ……」
「綺麗だっつーの! まつげ長いし、鼻筋だってすっと通ってるしさ! うらやましがる奴たくさんいんじゃねぇの?」
言葉に詰まった。
その顔のせいで六年いじめられたよなんて思うが、そんなこと言えなくてただ口を継ぐむしかなかった。
基準が狂っていく。最悪だと思ってた容姿なのに、そうでもないのかと思えてくる。
こんな容姿、呪いだと思ってたのに。
「なえ?」
首を傾げ、あづは俺に顔を近づける。あづは俺の頬両手で触った。その手が、俺の涙で濡れていた。
「うっ、うっ、うっ。あああああぁぁぁぁっ!」
声をあげて泣いた。
本当はずっと、誰かに認めて欲しかった。姉以外の誰かに、綺麗だと認めて欲しかった。姉だけが俺の顔は綺麗だって言って、俺を守ってくれた。そんな姉が死んだら、もう俺は誰にも守られない生きる価値もないような奴だと思い込んでいた。いや、そう思わざるを得なかったんだ。
親戚にも、葬式に来た同級生や後輩や先輩にも死ねって言われて、本当に価値がないと思い込んでいた。世界中の人間に、そう言われたわけでもないのに。
本当はずっと誰かに女みたいじゃないとか、生きる価値があるって言われたかった。生きていいよって言われたかった。
泣き出したのに驚いたのか目を丸くした後、あづは俺の頭をそっと撫でる。潤は俺の左隣に来て、背中を撫でてくれた。
あづは撫でるのに慣れてないのか、何度も頭から手を離しては撫でてを繰り返す。
「アハハ! 撫でるの下手かよ」
涙を拭いながら、笑って言う。
「なっ、うっさい!」
顔を赤くして、恥ずかしそうにあづは言う。
「……あづ、潤」
「「ん?」」
「……ありがとな」
「「おう!」」
二人は元気よく笑って頷いた。
――少しだけ遊ぼう。
海外に行くのは絶対だ。今だけ。先生に転院のことを言われるまで、こいつらと過ごしてみよう。好きなように、やりたいように。