死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「なえ」
病衣の裾を引っ張ってあづは言う。
「ん?」
「連絡先教えろよ。それでいきたいとことか、いつ行くかとか話し合おうぜ」
急に話題を切り替えられた。よっぽど話したくないんだな……。やっぱり聞かない方がよさそうだ。
「俺携帯持ってねぇよ。だから三人で決めろよ」
「今時携帯持ってない奴とかいるんだな」
目を丸くして潤は言う。
「え、マジで? なんで持ってねぇの?」
俺に顔を近づけて、あづは首を傾げる。
「……それは答えたくない」
姉は中一の時に携帯を買ってもらったし、同様に俺も今年の四月に買ってもらうハズだった。家族が死んでなければ。姉の携帯は大方家にあるだろう。親戚が持ってる可能性もあるけど。でもそれは十中八九解約されているハズだ。仮にされていなかったとしても、姉の携帯は使いたくない。
「そっか。じゃあ行きたいとこあるか? そっから三人で絞るわ」
俺の顔を覗きこんで、あづは笑う。
「んー激しい動きはできねぇから、強いて言うなら動物園か水族館辺りだな」
「りょーかい。じゃあそれで連絡しとく」
「ああ」
「楽しみだな!」
そういって、あづは二カッと笑った。
「おう!」
元気よく潤は頷く。
「……そう思ってんのはお前らだけだよ」
嘘だ。同年代の奴らと遊ぶのなんて初めてだし、ほんの少しだけ楽しみだ。でもそれは、絶対こいつらには言わない。
「なんだよそれ。なえって本当に性格歪んでるよな」
口をとがらせてあづはぼやく。
「お前が歪んでなさすぎなんだよ。後すげえ子供。小学生みてぇ」
「どこがだよ! 中一だし!」
「そういうとこだよ」
諭すみたいに言う。
こいつ、俺と同い年なのか。それならきっと潤達もそうなのだろう。
まさか同級生と遊ぶことになるなんて。本当に予想外だ。佐藤とは一緒に帰ったことはあったけど、遊んだことはなかったし。そんなこと一生起こらないと思ってたのに。
この選択は正解なのか、それとも間違いなのか。一体どっちなのだろう。つかの間の幸せなのに、俺はそれを壊せない。きっともう二度と。