死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
受付を済ませて水族館に入ると、大きな水槽が左右にある開けた通路に出た。
クマノミなどの小魚が優雅に水槽の中を泳いでいる。
「うおっ、すげぇ! 」「クマノミ可愛い!」
水槽に手を当て、あづと恵美は魚に夢中になる。
俺と潤は、それを遠巻きに眺める。
「……潤、ありがとな。お前と恵美が親に頼んで携帯買ってくれたんだろ?」
「……そうだけど、お礼ならあづに言え。あいつが携帯あげようっていったんだから」
髪をいじりながら潤は言う。
「あづが……」
「あいつはちょっとぶっ飛んでるかもしんねぇけどさ、お前を元気づけたくて仕方がないんだよ。それは理解してやって?」
「……俺のため?」
足を止めて、俺は首を傾げる。
「そ。全部お前のため」
「……俺はそんなの頼んでない」
「頼んでなくても世話焼く奴なのあいつは! そんくらいお前もわかってんだろ?」
「俺は誰かと仲良くする気も、元気になる気もな……」
潤は俺の口を片手で塞ぐ。
「お前がそう思うのは勝手だけど、俺らがお前を元気づけたいって思うのも勝手だから。お前にそれを拒否する権利はねぇ!」
そういって、潤は楽しそうに歯を出して笑った。
言葉がでない。なんて言えばいいのか、全然分からない。
「とにかく、お前が望んでなくても俺らはお前を励ますつもりだから、それはわかっててほしい。それで元気になるかは二の次でいいから。な?」
「返事」
顔を近づけて潤は言ってくる。
「……わかった」
「よし!」
「奈々? 潤? 何の話してんだよ?」
魚を見ていたあづが近づいてくる。
「あづには言わね。じゃ、どんどん回るぞ!!」
そういい、潤は歩き出す。
「はぁ? なんだよそれ! ……ほら奈々、行くぞ」
ぼやいてから、あづは俺に片手を差し出す。
「なんで」
「だってお前、こうでもしないと逃げそうじゃん。それに、スマフォあるとはいえはぐれたら困るし」
小さい頃、姉が差し出してくれた手が頭をよぎる。
「……さっさと握れよ」
数歩先では、潤と恵美が笑って俺達を見ていた。
俺が手を重ねると、あづは満足そうに笑って歩き出した。
手を引かれて行ったのは、ペンギンやあざらしがいるところだった。ペンギンは氷の上を歩いたり水の中を泳いだりしている。