死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
“奈々絵、ペンギンだよ! かわいいね”
 去年の夏休みに家族四人で水族館に行って、姉と話したのを思い出す。
 ペンギンは、その時見たのと殆ど変わらない姿をしていた。
「うわっ。めっちゃ可愛いな!」
 廊下と氷の世界を隔てるガラスに手を当ててあづは叫ぶ。
「……まぁ、そうだな」
「初めて」
 目を見開き、あづは小さな声で呆然と呟く。
「……何が」
「お前がちゃんと頷いたの! すげぇ嬉しい!」
 頬をリンゴみたいに赤くし、嬉しそうにあづはいう。
「……そんなことないだろ」
「絶対そうだって!! マジ嬉しい‼」
 俺の背中を叩いて、あづは笑う。
「……あづはいいな。何でも楽しそうで」
 自分と正反対のあづを羨ましく思った。
 あづは本気で人生を楽しんでる。
 人生なんてつまんなくて当たり前。
 生きることも死ぬことも地獄だ。楽しいことなんて一つもない。いつだってつまんなくて当たり前。俺はそう考えずにいられないのに。
 母子家庭で、常時母親が家にいなくて大変なハズなのに、本当にあづは俺ととことん正反対だ。それが羨ましい。感心する。俺は一生そうはなれないと思うから。
「別にそんなんじゃねぇよ? 俺容量わりぃし、楽しくないなーって思うことだってある。でも、そういうのは考えねぇようにしてんの。だって演技でも笑ってた方が楽しくなんじゃん?」
「演技でも楽しく?」
 そんなの考えたこともなかった。
「そ。人生楽しんだもん勝ちだろ?」
「……そんな風に思えるなんて、すごいな」
「大したことねぇよ」
 そういって、あづは陽気に笑った。
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