死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「せーの!」
 フィットネス水着を着たトレーナーの掛け声に合わせ、イルカがジャンプする。
「おおっ!」
 それを見て、隣にいたあづは声を上げた。
「めっちゃ飛んだぞ! たけぇ!」
 俺の肩を叩いて、あづは叫ぶ。
 イルカの鮮やかさに圧倒される。
 澄んだ穢れを知らない瞳と、言われたことをそつなくこなす素直さが魅力的で、魅かれた。何より、鳴き声をあげて楽しそうにやってるのに夢中になった。
「すごい……」
「見てよかっただろ?」
 満足そうな顔をしてあづは俺に笑いかける。
「……まぁ」
 俺の頭を撫でて、あづは嬉しそうに笑った。

 イルカショーを見た後は、四人で水族館を出て、タクシーがよく止まっている駅前のロータリーに向かった。

「イルカ可愛かったねー」
「だな!」
 笑いながら恵美と潤は言う。

「あづ、良かったのか?」
 二人に聞こえないよう、小声で俺は言う。
「ん? 何が?」
 思い当たることがないのか、あづは不思議そうに首を傾げた。
「お前、水族館初めてなんだろ。イルカショーもっと前で見たかったんじゃないのか?」
 真ん中の列に四人並んで見たのが俺は腑に落ちなかった。あづは絶対最前列に行くと思ってたから。魚を見た時もかなりはしゃいでいたし。
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