死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
 その日の夜、消灯時間を過ぎた後、俺は病室を抜け出して屋上に行った。消灯する時に監視カメラも切ってくれるから、バレずに行けた。

 俺はベンチに座り込んで、スマフォにある四人の写真を見る。楽しそうに笑うあづ達と、口を尖らせた俺が映っている。……確かに、不機嫌な顔だな。

「赤羽くん、これフランスの病院の資料。転院するならそこになるから、目を通しておいて」
 屋上に来る二時間ほど前、穂稀先生が病室に入ってきてそんなことを言ってきた。 
 渡された資料はちゃんと日本語で書かれていた。日本語のパンフレットはないだろうから、パソコンで調べて印刷してくれたのだろう。
「先生、フランスの一番高い病院にしてください。治療費、親戚の金ですし」
 親戚は治療費しか払わない。
 あいつらが治療費を払うのは、俺が治療を受けなかったせいで死んだら、それが自分らの評判に関わるからだ。
 貧乏なわけでもないのに金を払わなかったクソ野郎になるのをあいつらは嫌がっている。あいつらは早く死んで欲しいと思いながらも仕方なく俺を生かしているんだ。自分らの評判のためだけに。評判のためだけに金を払う奴らに、もうすぐ死ぬなんて絶対に教えない。海外に行くこともだ。あいつらには何も教えない。俺は勝手に高い病院に入院して、アイツらの金をとことん使い回す。死んで欲しいと思ってるなら、偽善者みたいに金を払うのなんてやめてしまえ。
 そう思うのに、俺は転院の手続きを進めていいかって言われた時、頷けなかった。
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