死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
〝奈々!〟
 ふと、あづの声が頭を過った。
 おこがましいと思いながらも、俺は生きるのを諦めきれない。
 ――俺は卑怯だ。どうしようもなく。 
 またいじめられるんじゃないかと考えるだけで生きるのが嫌になるくせに。たとえ親戚中に死ねって言われて、いづれあいつらにも死ねって言われる運命だとしても、死にたくないと思っている。死ぬのが怖いんだ。想像するだけで体が震えてしまうくらい。それなのに、手術を受ける勇気もなくて。
 俺は何もかも決められていない。本当に矛盾だらけで、卑怯だ。
「誰か、たす……けて」
 口にしたその言葉は掠れていて、全然声になっていなかった。
 当然だろう。だって俺には、助けを求める資格なんてない。この手は、赤い血にまみれた人殺しの手なのだから。
「フランス行くしかないよな……」
 それしか選択肢はない。これ以上一緒にいたら取り返しのつかないことになる。死にたくないどころか、生きたいと思うようになってしまう。それだけはダメだ。フランスに行くしか俺の選択肢はない。そう思うのに、それを嫌だと思う自分もまた、心の中にいた。
「俺は……っ!」
 ――もういっそ、誰かに答えを決めてもらいたい。
 こんなに悩むハズではなかった。
 本当なら俺はあの日死んで、親戚中にいなくなったのを祝福されるハズだったのに。そうならなかったことにほっとしてる自分がいるのが、心底はがゆい。
 でもそれ以上に、人殺しの癖にあいつらと生きようとしてる自分が、遊んだらダメだと思いながら遊んでしまう自分が、俺は許せない。
 ――俺は口だけだ。
 むしゃくしゃして、俺は柵を蹴った。
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