死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
 直後、あづからLINE通話がかかってきた。
「奈々、お前今どこいる?」
 声の届き方に違和感があった。スマフォからと後ろから聞こえる。
「病院だけど」
「病院の屋上だろ?」
 俺はまさかと思い、辺りを見回す。すると、向かい側のマンションの屋上にあづがいた。
「は? お前何してんだよ。今十一時だぞ? 補導されるぞ」
「お前こそ何してんだよ。消灯時間とっくにすぎただろ」
「それは……」
「とにかく、こっち来いよ。でないと俺が行くぞ」
「なら勝手に来い」
「はいはい。わかったよ。そっから動くなよ?」
 それから五分もしないうちに、あづは来た。
「なんで起きてんだよ」
「……ほら俺母親忙しいから夜暇でさ、色んなとこ行ってんだよ。それで奈々寝てんのかと思って病院見たら屋上に人いんの気づいて。奈々じゃなかったら嫌だから向かい側のマンション登って確かめたわけ」
 得意げにあづは言う。
「……先生まだ帰ってないのか?」
「……いや、もう帰ってきて寝てる。帰って来たらすぐ風呂入って寝ちゃうからさ」
 目を背けて、あづはいう。
「そうか……」
「奈々は? なんで起きてたんだよ?」
 首を傾げ、目を丸くしてあづは言う。
「……寝れなくて」
「ふーん? どっか行くか? 俺夜中いつも外いるから、いきたいとこあるなら大抵連れてってやれるけど」
「例えばどこだよ」
「夜景が綺麗なとことか?」
「……着替える。出入り口で待ってろ」
 決めた。
 もうこれで、遊ぶのは最期にしよう。フランスに行くかどうか、これで決める。
「りょーかい!」
 俺の心中も知らないあづは、陽気に笑ってそう言った。
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