死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「……なんかあったのか?」 
 俺の顔を覗きこんで、あづは首を傾げる。
 俺は何も言わず、顔を伏せた。お前らのことで悩んでるなんて言えるわけない。
「ま、話したくないならいいや! 聞かないって言ったし。お前が話したくなった時に話せばいい。まだ夜は長いんだし、今日は楽しもうぜ!」
 何も言わず、俺は頷く。
「よし! じゃあ待ってっから、早く来いよ! じゃないと部屋漁っちゃうぞ?」
「……わかったよ」
 作り笑いをして、俺は頷く。俺を見て満足そうに笑ってから、あづは階段を駆け上がった。
 あづが階段を上がりきったのを見てから、俺は深呼吸をし、玄関の前にあるドアを開けた。
 ドアの先には、キッチンとリビングが広がっている。
「……姉ちゃん、何死んでんだよ」
 リビングの右奥に置かれた仏壇の前に座り込み、呟く。
 あの日俺が死んでれば、こんなに悩むことはなかったのに。
「何死んでんだよっ!!」
 声が枯れる勢いで叫び、姉の遺影が入った額縁を掴む。落としてやろうと思った。
 ――俺を守るって言ったくせにいなくなってんじゃねぇよと、そう思わずにいられなくて。
「……あんたのせいだ。あんたが死んだせいで、俺は死ねって親戚に学校の奴らにも罵られたんだよ。あんたが死ななければ!」
 額縁に涙が零れ落ちる。
 俺は手を上にあげ、額縁を振り落とそうとした。だが、落とそうとした瞬間、手から力が抜けた。
 ――落とせるわけがなかった。
 何があんたのせいだ。こんなの責任転嫁だ。姉が死んだのは飲酒運転をしたクソ野郎のせいなのに。姉自身に罪なんて少しもない。姉はちゃんと死ぬまで俺を守ってくれた。俺と仲良くしてくれた。
 悩んでいるのは、姉が死んだせいではない。
 あいつらと過ごすのが、楽しかったからだ。
 同級生と水族館に行ったのもふざけあいながらお菓子やお昼を食べたのも、写真を撮ったのもイルカショーを見たのも。全て新鮮で、すごく楽しかった。
 
 最愛の姉と引き換えに手に入れたのは、俺を姉のように大切にしてくれるあいつらだった。まさか、最愛の人を引き換えにして欲しかった友達が手に入って、つかの間の幸福を得るハメになるなんて。

 ――こんなの望んでない。望んでないんだよ!!
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