死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「アハッ、アハハハハ! アハハハハハハ! ……本当に、詰んでるな俺の人生」
 幸せになりたいって望んでるのがバレたら、親戚たちに死ねって言われて。それを無視して遊んでても、どうせ数年しか遊べないくらい脆弱(ぜいじゃく)で。本当に、いいとこなんて一つもない。
「……感情なんて、無くなればいいのにな」
 それができないならいっそ、誰かに殺されたい。
 両手で、自分の首を軽く締めてみた。少しずつ、力を入れてみる。

「ぐっ……」
 苦しい。掠れたうめき声が漏れた。
 このまま深く締めれば、死ねる。そう思うのに、力が出なかった。

「奈々?」

 ドアをノックして、あづが部屋に入ってくる。
 中々来ないから様子を見に来たようだ。
「なっ、お前何してんだよっ⁉」
 あづは慌てて、俺の両手を力ずくで首から離した。
「奈々っ、どうしたんだよ」
 あづの声を無視し、キッチンに行く。
 俺はそこにあった包丁差しから包丁を出し、あづの前まで転がした。
「奈々、何のつもり」
「あづ、それで俺を殺せよ」
 青白い顔をしたあづの言葉を渡って、低い声で言う。
「は? 何言ってんだよっ⁉ するわけないだろそんなの!」
 怒るみたいに大声を出してあづは叫ぶ。
「いいから殺れよ! 生きてんのが辛いんだよ‼ 帰らせなきゃいけないのに、帰れって言えなくなって。楽しんじゃいけないのに、どんどん楽しくなって。人殺しなのに、どんどん欲が深くなっちまう。そんな自分が、許せないんだよっ!」
 声が枯れる勢いで俺は叫び返した。
「……奈々」
 あづの足元にある包丁を掴み、柄をあづに向ける。
「ほら、早く。目を閉じてやれば一瞬だ。怖くもなんともない」
「そんなことできるわけないだろ!」
 あづは俺の手から包丁を思いっきり振りほどいた。
「痛っ!」
 包丁の刃があづの右手人差し指を掠めた。斜線状に皮が裂け、血が流れる。
「ごっ、ごめんあづ」
 慌てて謝る。傷を見て我に返った。何してるんだ俺は。
「……別にいい。こんなのなれっこだし」
 そう言うと、あづはキッチンに行き、水道で顔をしかめながら指を洗った。
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