死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「どうしたんだよ、奈々」
 蛇口の水を止め、あづは座り込んでる俺の前にしゃがみこんだ。
「うっ、うっ、あづ……」
 俺はあづの背中に腕を回し、仏壇に目を向ける。

「……小学校の卒業式の日、家族でドライブに行ったんだ。そしたら前から飲酒運転したトラックが突っ込んできて、両親と姉が死んだんだ。姉は俺を庇って死んだ。姉は優しい人で、人付き合いが下手なせいで親戚にも同級生にも嫌われてた俺は、なんでお前が生きてんだって、お前が死ねばよかったんだって散々言われて。姉の彼氏に首絞められて、殺されそうになって。だから俺は、幸せになりたいなんて言っちゃダメなんだよ! それなのに、お前や潤達といると、どんどん幸せになりたいって思っちまう」
「何だそれ。なんで奈々が首絞められなきゃいけねぇんだよ! めちゃくちゃじゃねぇか‼」
「……そうだな。悪いのは飲酒運転して前から突っ込んできたクソ野郎だな。でも、それでも、あの日俺が生き残るべきじゃなかった。俺が死ぬべきだった。……みんなそういった。あの日、俺が死ななきゃいけなかった。俺が死んで姉が生き残れば、親戚みんな涙を流しながら喜んでたハズなんだ」
「は? なんだよそれ! お前が死んだら親戚は喜ぶのか?」
「……ああ、そうだよ。みんなで宴でもするんじゃないか?」
 上機嫌な様子を取り繕って言う。
「そんなの可笑しいだろっ!」
「……可笑しくないんだよ。姉は頭が良くて人望もあって、誰からも慕われてたんだ。だから、そんな優秀な姉を差し置いて俺が生き残るべきじゃなかったんだ」
「そんなことねぇだろ! 大事にされる命と、されない命があってたまるかってんだよ!」
 俺の頬を触って、あづは叫ぶ。
「……そう思うなら、俺のことを大事にしない奴らみんな殺してくれよ。あいつらがいる限り、俺は幸せになれないんだよ! 幸せになりたくても自分は人殺しなんだって、俺が姉を殺したんだっていやでも考えちまう! あいつらが治療費を払うのは俺のためじゃない。どんなに殺したくても、本当に殺したら真っ先に疑われるハメになるからだよ!」
 あづの腕を掴んで俺は叫ぶ。

 あづは口をつぐんだ。
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