死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「……悪い。お前を人殺しにしたいわけじゃねぇんだ」
「奈々、ずっと帰れって言ってたのは」
「……察しいいじゃん。そうだよ。誰かと仲良くするのが後ろめたくて仕方がなかったからだよ。……俺は悪くない。悪いのは飲酒運転してたクソ野郎だ。それでもあの日姉が俺を庇ったのは事実で、あの日姉の隣にいたのが俺じゃなくて父さんや母さんだったら、間違いなく姉は助かってた。その代わりに俺が死ぬならそれでよかった。いや、そうならなきゃいけなかったんだよ」
「そんなことないだろ! 俺は奈々が生き残ってよかったと思ってる。潤や恵美だってそうだ‼」
泣きながら、あづは叫ぶ。
「……ああ、そうだろうな。それでも、俺にはないんだよ。親戚に死ねって言われてる分際で、誰かと仲良くする気が。だから突き放してたんだ」
「突き放す前に相談しろよ! 頼れよ! 仲良くしちゃいけないって何だ! 誰かと仲良くしたら殺すとか言われたのか? 違うだろ? だったら一緒にいろよ‼」
「ごめん。姉ちゃん以外に頼ったことなかったから、相談なんてする気になれなかったんだよ。……本当に殺されないとしても、そばにはいれない。そう思われてるって考えるだけで、何もかも後ろめたくなっちゃうから」
そう言うと、俺は立ち上がり、ペットボトルの水と玄関にある靴箱の近くにあった財布を取って家を出ようとする。だが、俺の腕をあづが掴んだ。
「まだ話は終わってねぇぞ。お前勝手過ぎんだよ! 心開いちゃダメだって思ってたのに開いたのはお前だろ! お前も、俺らといんの楽しかったんじゃねぇのかよ!」
「だから、楽しいって思うたびに、辛くなんだよ!」
そう言うと、俺はあづの手を振りほどき、スマホをあづの顔に向かって投げた。
慌ててあづは両手で顔を庇う。スマホがあづの右手首を掠めた。その時、あづの長袖がまくれ、青黒い痣が顕わになった。痣の中央辺りから血が流れる。あづは痛そうに顔を歪め、腕をおさえる。
「いった!」
俺はあづから顔を背け、鍵のついたチェーンを外して靴箱に置き、家を出た。ドアを閉めようとすると、足を隙間に突っ込んでそれを阻止し、あづは言った。