死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「はぁ……。まっ、待ってるから! ……お前が後ろめたいと思わなくなる日まで、待ってるから! だからいつかお前から会いに来い! 絶対に!」
血まみれの腕で俺の頭を撫でて、あづは笑う。
それだけでダメだった。涙が溢れる。
何で怪我させられたのに怒りもしない。なんでそんなに信じる。なんで自分より俺を大事にする。お前のそういうところがムカつくんだ。そういう優しさが姉ちゃんに似てるから捨てられないんだよ。でも、それでも、もうそばにはいれない。一緒にいたらダメだ。
「……あづ、ごめん。ありがとう。楽しかったよ今まで。人生で一番楽しかった」
「痛っ! 奈々」
「……じゃあな」
俺はあづの手を頭からどかし、逃げた。
あづは追ってこなかった。それが優しさなのか、怪我したせいなのかはわからない。
頼むから後者であってくれ。
前者だったら本当に捨てられない。
「奈々絵! 待ってるからな!」
必死で走った。声が聞こえなくなるまで。血まみれの手で手を振ってるのが振り向いても見えなくなるまで。
滝のように涙が零れた。吐き気に襲われる。
涙が止まらないのは吐き気のせいなのか、あづに酷いことをしたせいなのか。間違いなく後者だ。
――俺は最低だ。殺してって言って怪我させて、泣かせて。すごい傷つけて。
包丁があづの手を掠めたのは俺のせいではない。だって誰も思わないだろ。怪我をする可能性があるのにあんなことをするなんて。
でもさっきは、怪我させるつもりでスマホを投げた。もう終わりだっていう意思表示のつもりで。そしたら袖がまくれて、青黒い痣が見えた。それで確信してしまった。――アイツは穂稀先生に虐待されている。絶対にそうだ。
最初から可笑しな点はあったんだ。平日の朝から病院に来るとことか、水族館に行ったことがないとことか。何より、身体を見せるのを異様に嫌がるとことか。でも、それが虐待のせいだなんて思いたくなかった。