死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
チェックインを済ませた俺は、空港の椅子に座って、飛行機を眺めていた。
あづを捨てたあの日から、一週間が過ぎた。
俺はあの後、どうにか自力で病院に戻って、フランスに行くと先生に言った。
飛行機に乗りさえすれば、十二時間くらいでフランスに着く。きっと、もう二度と日本に帰ることはないだろうな。
「赤羽くん!」
空港の出入り口から私服姿の穂稀先生が出てきて、駆け寄ってくる。
「先生? なんで」
俺は慌てて立ち上がる。
「半休もらったの。見送りしたくて。間に合ってよかった」
顔をしわくちゃにして笑って、先生は言う。
「赤羽くん、気を付けて。帰りたくなったら、いつでも帰ってきていいからね」
俺の頭を撫でて、先生は微笑む。頭の上にあるその手を掴み、俺は作り笑いをした。
「帰りませんよ。だって俺は独りで死ぬためにフランスに行くんですから。……先生、俺が死んだら、墓参りに来てくださいね。……お世話に、なりました」
「赤羽くん、本当にそれでいいの?」
「……そうしないと、気が済まないので」
そう言い、俺は無理矢理口角を上げて笑った。
「……先生、空我と仲良くしてやってくださいね」
証拠もないのに、虐待を止めろなんて言えないから、そう言うだけ言った。
「……そう、ね」
目を見開いた後、作り笑いをして先生は言った。
「赤羽くん、でも、本当にいいの?」
そういい、先生はバックから見覚えのあるものを二つ取り出す。
あづ達がくれたスマホと、俺の家の鍵がついたチェーンだ。