死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。

 飲酒運転してるトラックが前から突っ込んできてみんな死んだ。姉に小さな体を庇われて、俺だけ生き残った。俺と姉は三歳差で、姉はその時十五歳だった。俺は身長が高くなかったから姉と十センチくらい身長差があった。そのため、姉は簡単に俺を庇うことができた。俺が姉を殺した。姉に庇われて俺は死なずに済んだ。自分の分まで姉に怪我をさせてしまった。
 その酷い事実は、すぐに親戚中に広まった。多少脚色されて。
 俺が涙目で姉に助けを求めて、姉が思わず庇ってしまったと、そう広まったのだ。

 姉は優しい人だった。
 いじめられていたせいで毎日のように泣いていた俺は、いつも姉に励ましてもらっていたから。
 絵に描いたような理想の姉だったからこそ、その脚色は余計真実味を帯びた。
 嘘だと思う奴なんて、一人もいなかったんだ。
「何でお前が生きてるんだ! 何で紫苑じゃなくてお前なんだよっ!」
 突然、従兄弟の爽月(さつき)さんに首を絞められた。
 爽月さんは姉と交際関係にあった人だ。兄弟はダメだけど、従妹同士は交際も結婚もできるから。従妹同士の交際を冷やかす人もいた。それでも、爽月さんはそれをもろともせず交際を続けた。
 そういうことをする人がいるくらい姉は魅力的で、正義感が強い素敵な人だった。死ぬにはあまりに惜しい。――やっぱり、俺が死ねばよかったんだ。
「さっ、爽月さん、すみませ……」
「黙れっ!!」
 俺の言葉を遮って、爽月さんは叫んだ。
「プロポーズするつもりだったんだよ、卒業したら! 必ず安定した職に就いて、迎えに行くって、そういうつもりだったのに……っ!!」
 首から手を離して、爽月さんは泣き崩れる。
「はぁっ、はぁっ。爽月さん、……本当にすみませ」
  息も絶え絶えになりながら言う。
「黙れ! 紫苑に似た声で呼ぶな!!」
 俺の言葉を亘っていい、爽月さんは俺を鋭い眼光で睨みつけた。
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