死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
線が繋がっていく気がした。
不倫で産まれた子供なら、確かに虐待するのかもしれない。
自分の子でないと旦那に気づかれたくないのに、そんな気持ちとは裏腹にアビラン先生に似ていくあづを見て、ちゃんと育てるのが嫌になったのだろうか。
産もうと決めたのは、自分だというのに。
あづが二人暮らしだといったのは、不倫で生まれた子供なのを隠したかったからか。三人暮らしだけど、一緒に暮らしてる父親は本当の父親でないなんて言ったら、不倫を疑われて当たり前だ。
「……先生、今すぐ日本に帰って、空我に会いにいってやってください。あいつは、母親に虐待されてます。だから、今すぐに帰って、あいつを守ってやってください」
「穂稀が、虐待? そんなことするわけ……」
「してます。空我は、腕や頭。とにかく、身体中に痣があります。助けに行ってやってください」
俺は必死で頭を下げる。
「……仮にされていたとして、君は空我の何なんだ。なんで君がそんなことを知っている?」
「……お、れは」
声が震えた。
俺は空我の友達などではない。友達を名乗る資格が、俺にはない。俺はあいつのなんなんだ。
「……俺は、空我の知り合いです」
「知り合いの君が、何故そんなことを知っている? 君が知り合いだと思っていても、空我はそう思ってないんじゃないか? だから君に虐待のことを話したんじゃないのかい?」
「……虐待されてるってのは俺の予測です。でも十中八九そうだと思います。……後、確かに空我は、俺を今も友達だと思っていると思います。それは否定しません。でも、俺はあと四か月で死ぬので。たかが四か月であいつを虐待から救えるとは思えません。だから先生に頼んでるんです。お願いします。あいつを助けに行ってやってください」
俺は必死で頭を下げた。
「……それは、できない」
「は?」
「……穂稀は説得するよ。電話して、空我のことを聞いて、優しくするように言う。でも、それしかできない。僕は患者を守らなければならないからね」
「ふざけんな! 確かにアンタは医者だ。でも医者である前に、空我の父親だろ!」
右手で先生の胸倉を思いっきり掴んで、声が枯れる勢いで叫んだ。
「……ああ、確かに僕は空我の父親だ。しかし、僕は患者を守らなければならない。僕が治療しないと助からない患者が何人もいるんだ。それを投げ出すことはできない」
「……そいつらの代わりに空我が虐待のせいで殺されてもですか」
「それは……」
ばつが悪そうに、先生は顔を伏せる。
「……もういいです。吐き気しますよ、心底。偽りの愛ほど残酷なものはない。貴方も、穂稀先生も最低だ。俺の親戚と同類だ」
今の会話だけで、もう十分だ。こいつがあづを救ってくれるわけがない。