死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。

「……虐待って、そういうこと考えちまうくらい辛いんだよ。でも、誰にも話せねぇの。いじめだったらまだ良くある話だし、いいやすいと思う。でも、他人にされてるならまだしも、実の親にさんざん殴られたり蹴られたりしてるなんて、言いづらいんだよ。別にいじめより虐待の方が辛いって言ってんじゃねえよ? でも、誰でも最初から親のこと嫌いじゃないだろ。そりゃ、生まれた直後の二、三歳の時からやられたなら親が嫌いかもしんないけどさ、そうじゃなければ、色々考えちまうんだよ。何でされてんのかとか、ずっとこのままなのか。自分に原因があるなら、それ直せば暴力振るわれなくなんじゃないかとか。……お前もイジメられてた時、色々考えてただろ。それと似たようなもんだよ。だから、それ理解してやれ。理解したつもりでいても、話してくれないの辛くて、沢山喧嘩しちゃうかもしんねぇけどさ、何回喧嘩してもいいから、死ぬまでそばによりそってやれよ」

「……はい」
 涙を流しながら、俺は頷いた。

「お前が泣いてんじゃねぇよ。そうと決まったら、さっさと荷物まとめて帰るぞ。奈々絵、残りの人生楽しめよ。なにもかも、やりたいようにやれ」


 俺の涙を拭って、爽月さんは笑う。

「……はい。爽月さんは、帰ったらどうするんですか」
「……大学の友達とルームシェアでもするよ。親父になんて死んでも会いたくねぇし」

 吐き捨てるみたいに、爽月さんは言う。

「……あの、爽月さん」
「ん?」

「……俺と一緒に暮らしませんか。姉ちゃんの部屋か俺の両親の部屋使うことになっちゃいますけど。俺、先生に入院しなくてもいいって言われたんですよ。でも、一人で暮らすのは、怖くて」
 爽月さんは目を丸くした後、楽しそうに口角を上げて笑う。
「つまり、俺がお前の世話をしろってことか?」
「無理にとは言わないですけど」
「冗談だよ、バーカ。いいよ。面倒見てやる。……一緒に暮らすか」
「はい!」
 やっとだ。やっと、また家族みたいな人ができた。それが、俺は凄く嬉しかった。
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