死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
兄弟は声が似ていることがよくあるけど、姉と弟の声が似てることはあんまないと思う。でも、少し似てるだけで同じに聞こえるんだろう。どちらが死んでしまった時には、なおさら。あまりに悲しい。
――死のう。
いじめられた時から、死にたいとは思っていた。でも、姉が悲しむと思うと、実行に移せなかった。
今はその姉もいない。なら、ためらう理由なんてない。
俺は走って葬式場を出た。
知り合いがいるとこで死ぬなんて真っ平だ。アイツ死んだよって、笑われる気しかしないから。死ぬ前にそんな顔を見るのは絶対に嫌だ。
それなら、隣の市にでも行けばいいか。隣の市からわざわざうちの学校に来てる奴なんてあんまいないと思うし、それでいいだろう。
いつもそうだ。俺はずっとのけ者。蚊帳の外だ。
俺は繁華街にある花屋の自動ドアのガラスに映っている自分を見た。
そこに映っている俺は、ぱっと見女にしか見えない。名前と容姿だけで、俺は誰からも雑に扱われ、仲間外れにされる。
家族だけはそうでなかったのに、死んでしまった。それならもう生きる意味なんかない。
――やっと隣の市に着いた。
……どこで死のう?
俺は辺りを見回す。
とにかく人気のないところがいい。
住宅街の中に、一つだけ異様な雰囲気を醸す建物があった。
三階建てのビルだ。窓から見える部屋は、何処も明かりがついていない。人はいなそうだ。
門にある表札を見ると、工場なのがわかった。だが、表札の大部分が汚れていて、何の工場なのか全然わからない。随分と年季が入っているみたいだ。