死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。

「フッ」
「奈々? 何笑ってんだよ?」
 あづが不思議そうに俺の顔を覗きこむ。

「……いや、前もこんなことあったなぁって思ってさ」

「前? あー! あづが大雨の中病院行った時のことか! いや本当に、あの時はマジで心臓止まるかと思ったわ!」

 声をあげて笑いながら、潤は言う。

「……俺もだよ。本当にびっくりした」

「え? 何々? 何の話?」
「恵美は聞かなくていいから! 奈々着替えるんだろ! ほら、とっとと出るぞ!」
 あづはリンゴみたいに頬を赤くしてそういうと、恵美の腕を引いて洗面所を出ていった。

「あづ、照れたな」
 歯を出して心の底から楽しそうに笑いながら、潤は言う。

「ククッ、そうだな」
 笑いながら、俺は頷いた。

「それにしても、奈々が意外と元気で安心したわ。左腕、動いてねぇみたいだけど」
 着替えている俺を見ながら、潤はとんでもないことを言う。

「えっ。……いつ、気づいた?」
 着替え終わると、俺は慌てて後ろに振り向いて、低い声で言った。

「ついさっき。髪吹くのに、ずっと右腕だけ使ってたじゃん」

 俺の髪をドライヤーで乾かしながら、潤は言う。

「あづは?」
「あいつはそういうの鈍いから、多分気づいてねぇよ。恵美は気づいてるかもしんねぇけど、お前が話そうとしなければ、あづには言わねぇと思う」
「……そうか」
 俺は肩を落として、ため息を吐く。
< 86 / 170 >

この作品をシェア

pagetop