死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「……もしかして、それが原因? 突然いなくなって、三年も消息不明だったの」
「……ああ。俺、寿命あと四か月なんだよ。それで、死ぬ前にお前らともう一度一緒に過ごして、あづの親のこともどうにかしたいなって思って帰ってきた」
ドライヤーが、潤の手から滑り落ちる。ドライヤーは音を立てて、俺の足元に落ちた。
「あっぶな!?」
俺は思わず声をあげた。
それに対して、潤は何も言わない。まるで人形のように、言葉を発さなかった。
落ちた反動でスイッチが切れたドライヤーは、まるで人形と化した潤の心を現わしているかのように静かだった。
「……今、なんて言った? 寿命が、何だって?」
そう潤が言ったのは、ドライヤーが落ちてから二分が過ぎた時だった。
「……俺、あと四か月で死ぬんだよ」
「は? ……冗談だよな?」
目を見開いて、潤は首を傾げる。
「……冗談じゃない」
首を振って俺は言う。
「……お前が死んだら、この先どうやって俺とあづは生きてけばいいんだよ! 恵美だって、お前が死んだらどんだけ悲しむと思ってるっ⁉」
声が枯れる勢いで、潤は叫ぶ。
「……だからお前だけに話してんだろ」
「……なっ、どういう意味だよそれ」
「……お前なら、あづや恵美を元気づけられるだろ」
俺は背伸びをして、潤の頭を撫でた。
「……ふざけんな! 俺らを置いて死ぬなんて許さねえぞ!」
「……じゃあ、一緒に自殺でもするか?」
目を見開いて、潤は言葉を失う。
「フッ。冗談だ。真に受けるなよ」
俺が作り笑いをしてそう言った直後、潤は涙を流した。
「ごめん。やっと帰ってきたのに四か月でいなくなるなんて、勝手すぎだよな。でも、……俺にはどうでにできないんだ。それに、これは報いだから。しょうがないんだよ。姉を殺した俺が、長く生きれるわけないんだから」
潤は不快そうに顔をしかめると、俺の左腕を掴んだ。
「潤?」
潤は何も言わず、俺の左腕を引っ張る。
「潤、やめろ。動かねえよ」
「……なんで」
潤は震えた頼りげのない声を出した。
俺の腕から手を離して、潤は叫ぶ。
「なんでずっと何も言わなかった! 病気のことも、家族のことも! 俺はあんたが死にたがってる理由、あづから聞いたんだぞ! なんでお前はいつも言うのが遅いんだ!なんで大事なことに限って、言うのが遅いんだよ!!」
「……ごめんな」
俺はそういって、潤の頭を撫でることしかできなかった。
「……もういい」
そういうと、潤は涙を拭って、俺の背後に回った。
潤は何も言わず、俺が着た服の左側を整えてくれた。
「……悪い」
「……別に。左側だけちゃんと着れてなかったら、変に思われるだろ」
そういうと、潤は俺の濡れた服を洗濯機に突っ込み、洗濯機のスイッチを押してから、俺の右腕を引いて洗面所を出た。