死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。

 それから二分もしないで、二人がいる恵美の部屋に着いた。

 潤がドアを開けた直後、頭にクラッカーが降ってきた。
 何かと思って部屋を見渡すと、そこら中に風船や、折り紙で作られた輪っかが飾ってあった。
「奈々絵、お帰り!!」
 勢いよく俺に抱き着いて、あづは笑う。
「びっくりしただろ? 俺も一緒に出てったのはこのためだったんだよ!」
 部屋の至る所に飾りつけされた風船や、折り紙で作られた輪っかを見ながら、自慢げにあづは言う。
「……お前、馬鹿だろ」
「なんでだよっ!?」
 声をあげてあづは突っ込んだ。
「……俺も馬鹿だと思うぞ。事情があったとはいえ、三年も音信不通だった奴に、こんなサプライズしようなんて」
 顔をしかめながら、呆れたように潤は言う。
「全くだわ」
 潤に続いて、恵美も頷く。

 本当に馬鹿だと思う。

 何か月かならまだしも、三年も音信不通だったのに。
 日本中の病院に電話かけて、それでいないってわかったのに諦めないで。それどころか、爽月さんに俺が捨てたスマフォを託したりして。
 爽月さんが本当に俺の従兄だって証拠もないのに。

「みんなして何なんだよ! 奈々喜ばせたくて大急ぎで準備したのに!」
 頬を膨らませてあづは拗ねる。
「ククッ。いやまぁそういうところが、あづのいいとこだよな。奈々もそう思うだろ?」
 歯を出して笑いながら、楽しそうに潤は言う。
 そう思わないわけがない。
 俺はきっとこいつがいなければ自殺していた。
 いや、きっとではない。
 俺はこいつがいなければ、間違いなく自殺していた。

「……ああ。本当に、あづは馬鹿だよ」
 そういって、俺は涙を流して笑った。

 神様がいるなんて幻想だ。
 生きる意味があるなんて綺麗ごとだ。そう本気で思っていた。
 いや、今もそう思っている。
 俺はまだ生きるのが後ろめたいし、こいつらと死ぬまで一緒にいる勇気なんて、これっぽっちもない。
 死にたいとは思ってないけど、それでも死を望まれているのに手術をする勇気なんてないし、あづや恵美、それに潤にも自分の病気がどんなものなのか伝える勇気もない。それでも俺は生きていく。
 たかが四か月。されど四か月だ。
 神様が人殺しの俺を許さないと、殺すというのなら、殺されるその日までこいつらと精一杯生きてやる。
 ――それが俺なりの親戚への反抗手段で、最高の生き方だ。
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