死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
七章
予兆。
「ただいまです」
「おかえり、奈々絵」
家に帰ると、玄関で爽月さんが出迎えてくれた。
まさか出迎えてくれると思ってなくて、俺は思わず目をパチパチさせた。
「どうした?」
「いや、まさか爽月さんが出迎えてくれると思ってなくて。それに家に人がいるのも凄い久しぶりなので、何か違和感があります」
「悪くない、良い違和感なんだろ? それならすぐ慣れる」
俺の頭を撫でて、爽月さんは歯を出して得意げに笑う。
「……はい」
「こっち来いよ。お前に着て欲しいものがあんだ」
そういい、爽月さんは俺を父さんの部屋まで連れて行った。今は爽月さんの部屋だけど。
「ごちゃごちゃしてて悪いな。まだ荷物整理終わってなくてさ」
部屋に雑に置かれたスーツケースや段ボールを見ながら、バツが悪そうに爽月さんは言う。
「大丈夫です。なんなら、俺も手伝いましょうか?」
「おっ、マジ? じゃ、後で頼むわ。その前に、お前これ着てみろ」
部屋の隅に置かれたハンガーラックから制服を取り出して、爽月さんは言う。
「制服……ですか?」
「そー。俺の高校の時のな。お前の学校、俺が通ってたのと同じとこに決まったから」
「えっ。じゃあ、説得成功したんですか?」
目を見開いて、俺は訊ねる。
「……いや。……俺さ、紫苑が死んでからすぐに、拒食症になっちゃってさ。その治療をお前が前通ってた長谷川病院で受けてたんだけど、そのこと親に内緒にしてたんだよ。それがバレたみたいでさ、家帰ったら顔に向かって診断書投げ捨てられて追い出された」
「それは……」
思わず俺は顔を伏せる。
「だから学費は俺が払ってやるよ。インターンしてた時の金まだ残ってっから、四か月分くらい全然払えるし」
俺の黒髪をわしゃわしゃっと撫でて、爽月さんは笑った。
「……なんでそこまでしてくれるんですか」
「だから、詫びだっつっただろ。それに、紫苑お前のことすげー大事にしてたみたいだからな。あいつの分も、俺が大事にしてやろうかと思ってな」
ウィンクをして、爽月さんは言う。
「……ありがとうごさいます」
俺は口角を上げて礼を言った。
「ん。じゃあ、着てみろ」
「はい!」
「上はちょっとでかいくらいか。けど、下はゆるゆるだなぁ」
萌え袖みたいになってるブレザーとYシャツ。それに、二センチくらい隙間がある緩いズボンを見ながら、爽月さんはいう。
「んー、ベルト俺持ってきてたっけな……」
着替えが入ったスーツケースの中をあさりながら、爽月さんは言う。
「おっ、あったわ」
スーツケースの中にあったポーチの中からベルトをとって、爽月さんはそれを俺に手渡す。