死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「……こんな時間に、誰だ?」 
 リビングのソファに座ってテレビを見ている爽月さんが、首を傾げる。
 爽月さんの隣にいた俺は、何も言わずインターホンのモニターを見に行った。すると、パーカーのフードを被って顔を隠している少年がいた。
 ……あづか?
 顔が見えないから確信はないが、俺の家を知ってる奴なんて、あづくらいしかいない。
 俺は慌てて、家のドアを開けに行った。
「あづ? どうした?」
 あづは顔を伏せて口をつぐむ。
 直後、あづはふらつき、倒れそうになった。俺は慌ててあづの腕を掴んだ。
「大丈夫か?」
「はぁ……。なっ、奈々絵」
 低い、頼りげのない声を出して、あづは俺を呼ぶ。
 そんな鬼気迫るような声を聴いたのは、大雨のあの日以来だった。掠れたその声を聴いただけで、只事でないのがわかった。
「……お、お腹空いた」
「……は?」
 空腹でふらついたのか?
 嘘だろ!
「……飯、食う? カレー余ってるけど」
 何も言わず、あづは頷いた。
 リビングに戻ると、爽月さんがいなくなっていた。どうやら、気を利かせて部屋に行ってくれたらしい。
 俺はあづをリビングのテーブルの前にある椅子に座らせると、キッチンに行って、カレーライスを用意した。
「美味!!」
 カレーライスが入った皿とスプーンを渡すと、よっぽどお腹がすいてたのか、あづはどんどんかきこんだ。
「夜ご飯食ってなかったのか?」
「……小遣い尽きてさ」
「先生夜ご飯作ってくんなかったのか?」
「……くれたことねぇし」
 小声でそう言ってから、あづは慌てて口を片手でおさえた。
「くれたことない?」
 飯作ってもらったことないのか?
「……なんでもない。やっぱ家帰るわ」
「泊まってけよ。布団余ってるし」
 あづの頭を撫でて、俺は言う。
「……わかった」
「じゃ、俺の部屋に布団用意しとくから、風呂入って来いよ。身体洗うタオルは、風呂場にある俺のあかすり使っていいから。着替えとバスタオルは、布団用意してから、俺の持ってく」
「……うん」
 小さな声で、あづは頷いた。
「……もしかして、俺のじゃ小さいか?」
「え? 奈々、服のサイズいくつ?」
「Sだけど」
「それならへーき。俺もSだから。風呂どこ?」
「こっち」
 俺はあづを風呂場に案内してから、爽月さんの部屋に行った。
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