死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。

「あー気持ち良かった。奈々、ありがとう」
 ダイニングのソファに座り込んでテレビを見ていると、俺の服を着たあづがそんなことをいって風呂から出てきて、そばにきた。
「おう。隣座れよ」
 俺はテレビを消して、あづに隣に来るようにいった。
「見てたんじゃなかったのか?」
 あづが隣に座ってきて、俺の顔を覗き込む。
「お前が風呂に入ってて暇だから見てたんだよ」
「……あっそ」
 あづは目を見開いて驚いてから、そっけなくいって顔を伏せた。
 あづのテンションが低い。
 いつものあづなら、今の俺の言葉に嘘だろとか言ったりして、大袈裟に反応するハズだ。
 何で今日はこんなにテンションが低いんだ? 
 虐待のせいか?

「……なんで潤の家じゃなくて、俺の家来たんだ?」
 俺は虐待のことを聞いてもどうせ答えてくれないだろうから、当たり障りのない話をすることにした。
「……潤と話す気になれなくて」
「なんでだよ?」
「……俺とあいつは環境が違いすぎるから。あいつってさ、すごい世話焼きじゃん。俺が雨なのに奈々の病室に行ったときも、LINE返信してこないからって凄い心配してくれたじゃん」
「ああ、そうだったな」
 俺はあの時のことを思い出して、笑いながら頷いた。
「……そういう心配のされ方を、時々嫌だと思うことがあるんだよ。今日はそうだった。だから奈々の家に来たの」
「そっか。環境が違うって、どんな風に?」
「色々だよ。アイツの家は金持ちだし、家族も仲良いし、俺の環境とは全然違う」
「あづの家も金には困ってないだろ。穂稀先生が親なんだから」
「……それはそうだけど、照明はシャンデリアじゃないし、少なくとも潤の家程の金はねぇよ」
「まぁそうか。……穂稀先生は相変わらず仕事忙しいのか?」
「……う、うん。そう」
 忙しいのは本当なんだろうけど、他に何かあるんだろうな。そう思わせる言い方だった。

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