俺様社長は溺愛本能を隠さない

「男には会うな」

ここはラウンジが近いせいか、迫られている私を行き交う人々がじろじろと見てくる。
恥ずかしい。
それなのに目が離せないし、振り切って歩きだすこともできない。

「……もう会った後です」

「何だと? どうなった」

「……別に」

戸川さんのことなんか、もう何も覚えていない。

彼のマザコンが判明して息が詰まるほど戸惑ったはずなのに、なんかもうどうでも良くなった。
彼と会うことはもうないだろう。

というか、今回のことで自覚したけれど、都筑さん以外の人に夢中になれる自信が全くない。

「もう会わないと思います。あまり婚活には向いていなかったかもしれません」

「“思います” とか “かもしれない” は無しだ。もうキッパリやめてくれ。こんなに可愛い格好で出歩かれるのも困る」

可愛い、って……。

「……有村?」

私は仕事が忙しくて誰とも出会えないし、婚活をしても上手くいかない。
いわば都筑さんに囚われている状態だ。
都筑さんと恋愛するのが一番現実的だし、効率的でもある。

「……有村。分かったな?」

可愛いと言われたスカートの裾をいじりながら、私は口をつぐんだ。

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