俺様社長は溺愛本能を隠さない

「有村」

名前を呼ばれたが、私は返事ができずに視線だけを向けた。
都筑さんと桃木さん、どちらとも目が合った。

「急で悪いんだが、桃木に仕事を教えてやってくれ。どんどん手伝わせていいから」

「……は、い」

「桃木。ちゃんと教われよ」

「はぁい」

都筑さんの隣にいた桃木さんは、ちょんちょんと跳ねながら今度は私の隣に来た。
背は私よりわずかに低く、下から覗き込むようにして「よろしくお願いします」と挨拶をされた。

かすれ声で私も同じ挨拶を返した。

この子、気づいてるよね、私と昨日会ったこと。
分かってるはず。その証拠に、私を見ては、いたずらな笑みを浮かべている。
ああもう、嫌だ……。

絶望的な気分になっていると、これだけでミーティングは終わり、それぞれデスクに解散した。

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