希望の魔法使い

場所は体育館の入口前。
中では入学式が行われている。
その入口の横で涼太は立っていた。

「あ、やっときたおっせぇぞ〜」

なんて言いながら朱音と美月を見る。

「あんたの足と一緒にしないでよね、運動バカが…」

そう言いながら息を整える2人と違い元の身体能力の高い涼太は涼しい顔をしている。

「というか何なのよいきなり、説明が足りなくて訳わかんない。本題は」

少し怒った口調でそう言った矢先、体育館の中から爆発音がした。

「えっ!?ちょっとなんなの!?」

「!?すごい、大きな音…」

朱音と美月は大きな音に肩をびくつかせた。

「…いやぁ、実はさ…」

あまり驚いた様子のない、参ったと言わんばかりの顔をして涼太は話し始めた。

「俺らってさ、四貴族《よんきぞく》じゃん?」

涼太のその言葉を聞いた美月は少し驚きながら言った。

「四貴族《よんきぞく》って…まさか」

その隣で朱音は続ける。

「そう、簡単に言えば魔力が高くて超強い魔法使いね。名前の数字通り現役では世界にたった4人だけ。杖の宝石に紋章があるのがその証拠」

自分で言うのもあれだけどと言いながら杖をくるくると回し淡々と朱音は言った。
朱音も涼太も世界で4人しか選ばれない四貴族《よんきぞく》の一員らしい。
魔力も強いに決まってる。

「し、知ってます…毎回貴族の人が選ばれてますよね…」

「そうそう。だから親とか親戚はほとんどこの紋章の入った杖使ってるのよ」

そんな会話をする2人に涼太がすかさず入り込んだ。

「今は!その話じゃなくて!」

はいはいと言いながら朱音は聞く体制をとった。

「俺らともう1人、いるじゃないですか、四貴族《よんきぞく》の伊澄さんが」

「あぁ、いるわね」

「………」

涼太は深く息を吸い、溜め込んで言った。

「その、伊澄のファンクラブの方が暴れまして…」

…ファンクラブ、本当にそんなのが実在するとは。

「入学式だから人はいないは先生達もあたふただし伊澄も朱音もどっかいっちまうし俺だけじゃ手に負えません!」

もうこれ以上関わりたくないというオーラが滲み出ている。
ぱんと両手を合わせ頭を下げた。
後はお願いしますと言わんばかりのポーズで。

「勘弁してよ…莉真でしょ…魔力あるから暴れられると強くて面倒くさい…」

はぁとため息をついて頭を抱える。
四貴族《よんきぞく》が言う程だから結構強いのだろう。
そして余程面倒なのだろう。

「大体そもそも原因は…」

その時体育館の入口のドアが勢いよく飛んだ。

「…お願いしますよ、朱音さん、手伝って」

「話してる暇はないか…仕方ない、説得するか…」

2人は意を決して体育館に入って行った。
入口の隅で美月は大人しく様子を見ていることにした。



体育館の舞台の上で1人の少女が立ち、杖を肩にとんとんやりながら話をしていた。

「今年の1年生は話聞けねーのかよ、あちこちざわざわ話始めてよ」

ふわふわの髪をした可愛らしい見た目とは裏腹に口調が荒い。

「全員まとまりねーし、司会の進行の妨げしやがって…おいそこの生徒!何とか言え!」

「ちょ、ちょっと莉真!」

すかさず朱音が宥めようと声をかぶせる。
が、涼太を見ると莉真は盛大なため息をついた。
そして1年生は安堵した。

「お前…手に負えなくなったからって朱音呼んでんじゃねーよ」

朱音と聞いて1年生は少し肩をびくつかす。四貴族《よんきぞく》の登場だからだ。

「ひぃっすみません!」

すかさず涼太は謝った。
そんな涼太を無視して朱音は続ける。

「どうしたの、一体何があったのよ」

入学式の日からびくびくしている1年生。
さすがに哀れだ。

「どうしたもこうしたもない…伊澄様の名前を出した途端ザワついてしばらくうるさかったんだよ…!」

それを聞いた朱音はやっぱそんな理由か…と半分呆れ気味にため息をついた。

「まぁ、あんたの大好きな伊澄に興味あるってことで…いいじゃない」

「それについてファンクラブの説明があるのに!時間が足りないんだよっ!」

どうやら何を言っても怒りは収まらないようだ。
そう言うと莉真は杖を青色に光らせる。

「ちょ、莉真…何する気…?」

「全員頭を冷やすことだな」

「おいおい…」

杖の周りに水が纏い始めた。

「氷魔法じゃ動けなくなって可哀想だから水魔法にしてやる。安心してずぶ濡れになれ」

魔法を放とうとしたその時。

「あっあの!さすがに入学式初日にずぶ濡れは可哀想だよ」

流石に1年生が可哀想、意を決して美月は声を発した。

「誰だお前…1年生か?しかも遅刻…濡れたくなければ魔法で止めてみろ」

そんな展開は予想していない。

「嘘!?わ、私も濡れたくない…!」

体育館の中はざわめき始める。
転入してきてすぐの魔法勝負。
と、いってもほぼ一方的。
美月は戸惑いながらも杖を赤く光らすと炎を杖の周りに纏った。

「火の魔法だと…お前今まで何を学んできた…魔法では相性があるって学校で習わなかったのか…!」

大きな水の魔法。
体育館にいる全員を飲み込む程の規模。

「ちょっと莉真!やめなさい!」

朱音が声をあげ、涼太が止めに入ろうとする。

「盾魔法《シールド魔法》間に合うか…!?」

その時、美月は火の魔法を発した。
とてつもない大きさと威力で。

「なっ!?」

全員が信じられないという顔した。
それもそのはず、目の前の大きな水を炎で蒸発させ、炎が天井を貫いたのだから。

「…圧倒的魔力の差があると相性なんて役に立たないことがある…学校で習ったはずだよね」

みんな口を開けて驚いていた。
あまり強そうに見えない、突然現れた少女が圧倒的に不利な魔法で相手を負かしたのだから。
そんな全員をよそに美月ははっとする。

「…あぁっ!しまった…天井に穴空けちゃった…!加減したのにど、どうしよう…!」

器物損害で焦る美月と魔法の力の差がある事に動揺している莉真。
朱音ははっとして、美月に声をかけた。

「ね、ねぇあなた…その、何者なの…?」

「え…あっと…」

杖を前に出して少し照れくさそうに。

「今日から転入してきました、四貴族《よんきぞく》の1人、2年生の綾小路美月《あやのこうじみつき》です…よろしくお願いしますっ!」

紋章の入った杖の宝石がきらきら光る。
杖を見て美月に視線を戻し思考を動かす。

「ええええぇぇぇぇーーー!?!?!?」

全員の声が一致した瞬間である。
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