希望の魔法使い
美月が学園長室を後にすると、廊下に朱音と涼太が立っていた。
「あ…」
2人はまじまじと美月の顔を見つめた。
「あの…?」
涼太が先に口を開いた。
「まさか学園長の孫だったとは…しかも四貴族《よんきぞく》!」
朱音も続いて言葉を続ける。
「転入生のことも渚先生にしか言ってなかったみたいだし…本当にびっくりよ」
それもそうだ、1年生だと思われてたうえに学園長の孫で四貴族《よんきぞく》の1人なのだから驚かないわけがない。
「あぁっあの、早く言わなくてごめんなさい…!」
そんな美月に朱音が笑って答える。
「気にしないでよ、こっちも早とちりしてごめんね」
「そうそう!おかげでずぶ濡れにならなかったしむしろサンキューな!」
そんな2人の言葉に美月も笑う。
「笑うと可愛いー!」
「まったくあんたは…」
涼太の首根っこを掴みながら朱音はため息をつき、あっ!と言うと美月に向き直った。
「私達自己紹介してなかったね…改めまして四貴族《よんきぞく》の1人、2年生の佐伯朱音《さえきあかね》です、よろしくね」
「右に同じく!2年生の橘涼太《たちばなりょうた》でっす!ぜひぜひ仲良くしてねー!」
そう言って美月に抱きつこうとする涼太の首元にに朱音の手刀の制裁が入る。
「ぐぇっ…!」
「さ、こんなバカ無視して学校案内してあげるね」
「あ、ありがとう…」
朱音と涼太はいつもこんな感じなのだろうと美月は納得しながら前を歩く朱音について行った。
「と、まぁ学校案内はこんなもんかな」
「案内ありがとう」
一通り案内し終わりテラスでティータイムがてら3人は一息ついていた。
「人全然いないんだね…」
「今はテラスに俺らしかいないけど入学式じゃなかったらもう少し人いるよ、ここは」
そう言いながら涼太はおやつを頬張る。
その隣で紅茶を飲んでいた朱音がカップを置くと話し始めた。
「クラスも一学年4クラスあるとはいえ1クラス20人も満たないから全体の生徒の数だと200人ちょいしかいないのよ」
それだけ魔法使いは稀な存在。
魔法が使えない人間よりも圧倒的に少ない。
「魔法の使えない人間に危害が無いよう脅かす存在がないか、ある程度の魔力を持っている魔法使いは学園の外を出て見廻り行くのよ、授業の一環として」
そんな怪物みたいなの出るなんてイレギュラーそうそうないけど念には念をね、と話す朱音。
そんな朱音に続いて涼太が見廻りなんてうちの学校くらいだよな〜と話す。
「ローテーションで学園から何人か見廻りに出てる生徒いるから余計に学園には人がいないんだよな〜」
ほとんど見廻りに行くのは3年生で稀に2年生が行くくらいかななんて話をしていると学園のチャイムが鳴った。
「あれま、もうそんな時間かよ」
その時、先程体育館で見た教師、渚先生がこちらに近づいてきた。
「お前たちここにいたのか」
どうやら3人を探していたらしい。
「学園長先生からの伝言だ、朱音と美月の寮の部屋が隣らしい。朱音、引き続き案内頼んだ」
「あ、はい」
そんな返事をする朱音の隣でわなわな震えている涼太が声をあげた。
「朱音ばっか!俺とお隣さんにぜひ!」
そう言って右手を美月に差し出した。
困っている美月に差し出されたその右手を朱音がへし折る勢いで指を曲げた。
「あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
痛い痛いと騒ぐ涼太を見て渚先生が呆れた様子でため息をついた。
「ま、伝えたからな」
そう言って去っていく。
あのぐるぐるメガネでよく前が見えるものだ。
「じゃ、寮に帰りますか」
「俺の右手ぇ…」
美月が2人に向き合い改めて、と言葉にして。
「朱音ちゃん、涼太くんこれからよろしくね」
その言葉に2人は向き合うと優しく微笑んだ。
3人が微笑み合う頃教室の渡り廊下で2人がすれ違った。
「…」
「…伊澄」
先程まで校舎裏にいた、伊澄と呼ばれる少年が振り返らずに返答をする。
「…なに」
「さっき学園長先生が呼んでたぞ」
「…わかった」
廊下に強い風が吹く、次の瞬間そこにはもう伊澄の姿はなかった。
「…相変わらず何考えてるかわかんない奴だな」
そう言い残すと渚先生もその場を後にした。