希望の魔法使い



それぞれの寮に帰るべく、涼太と別れた美月たちは女子寮の中をぐるぐると見渡しながら歩いていた。

「とりあえず女子寮の案内はこんな感じかな」

「色々ありがとう、朱音ちゃん」

困ったらいつでも聞いてねと笑顔で朱音が答える。
そろそろお風呂入りに行こうかと話していると向こうから1人の少女が歩いてきた。

「…あ」

「…お前は…」

「あれ、莉真お風呂上がり?」

問いかける朱音の言葉は無視して明らかに嫌そうな態度をとる。

「あ、あのう、体育館では…」

「…伊澄様と同じ四貴族《よんきぞく》なんだってな」

不機嫌な態度で美月に話しかける。

「…えっと…」

「ほら、いきなり伊澄の話されても困るでしょ、まずは自分の自己紹介!」

そう朱音に促されいやいや自己紹介を始めた。

「…天道莉真だ」

「綾小路美月です、よろしくね」

「私はよろしくする気は無い」

きっぱりと言い放つとその場からさっさといなくなる。

「わ、私嫌われてる…」

「ま、まぁ莉真は誰にでも基本あんな感じだからさ気にしないで」

落ち込む美月に朱音がよしよしと背中をさすった。

「莉真はファンクラブの会長やってるくらいだからさ〜」

「すごいね…そんなに夢中になれるんだから、きっと本当に好きなんだねぇ…」

そう言ってはにかむ美月に朱音は少し目を見開いて。

「…美月ならすぐに莉真と仲良くなれるよ」

「うん、できるといいな」

まったりお風呂で温まりながらお喋りでもしよっかと話す朱音。
じゃぁ部屋まで戻って入浴セットとってこよう、と話す2人はその場を後にした。



しばらくしてお風呂場から寝巻き姿の少女達が出てきた。

「やっぱ大浴場はいいわね」

「うん、さっぱりしたね」

会話をしながらお風呂を終えた2人が部屋に向かって歩いていた。

「部屋が隣だから色々と便利ね」

「朱音ちゃんとお隣嬉しいな」

と本当に嬉しそうに笑う美月に朱音は少し驚いて顔が赤くなる。
果たしてお風呂のせいなのか。

「…ふふ、素直だなぁ」

小声で朱音がぽつりと呟いた。

「えっ?何か言った?」

「なんでもないわ、明日は登校初日、一緒に行こうね」

「うん、ありがとう」

そう言うと朱音はおやすみと言って部屋に入っていった。
美月もおやすみと返して部屋に入りドアを閉めた。

「ふぅ」

ため息をつくと美月はベットにダイブした。

(今日は色々あって疲れたなぁ)

その時、部屋に桜の花びらが入ってくる。

「…あ、桜…」

窓の外を見ると目の前には桜の並木道。

「わぁ…きれいだなぁ…」

そう言って下を見ると玄関の入口の真上。
誰が出入り出来るのかよく見える。

「…やっと、また…うん、頑張ろう」

そう言うと窓をぱたりと閉めた。
ひらひら舞う桜が風でとんでゆく。
まだ、桜は咲き始めたばかり。
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